第31話 目的は

 僕が部室を抜け出してトイレに向かうと、


「来たか」ヴィントがその途中で待っていた。「話がある。人の少ない所まで来てくれ」

「ついに告白? 待ってたよ」

「その冗談は人を傷つける恐れもある。気をつけろ」まったくもってその通りなので、反論はしない。「少しばかり真剣な話だ。まぁ、我が真剣な話など似合わないと思うが……聞いてくれるとありがたい」


 というわけなので、僕はヴィントについていく。


 到着したのは旧校舎。やはりこの学校で人の少ない場所と言ったらここになるだろうな。


 てかヴィントは……トイレと言って部室を脱出してきてるんだけどな。かなりの死闘だと思われるけど、良いのだろうか。ヴィントなら気にしないんだろうな。


 ヴィントは周りに人がいないことを確認して、


「話というのはほかでもない。雪落ゆきおちさんのことだ」

「……だろうね」だと思っていた。「雪落ゆきおちさんがどうしたの? 僕が彼女のことを好きってのは内緒だよ。ヴィントにも言ってないんだから」

「それは聞かなかったことにしておくよ」そうしてくれるとありがたい。「10年前に河原で、誰かに助けてもらった、というのは本当か?」

「どうだろうね」


 僕も疑っている。


 だって、少しばかり無理のある話だ。いや、無理がある可能性が高い話だ。


 僕は続ける。


「10年前といえば、があった時期と被るからね」

「そういうことだ」ヴィントは事件の概要を説明してくれる。「10年ほど前、河原の近くに住む一家が殺された。現場は家の近くの河原。殺されたのは両親と、息子一人。生き残ったのは……長女だけだった」


 僕たちの地域で起こった大事件。当時の緊張感は半端じゃなかった。とくに僕は家が近かったので、かなりの恐怖を感じたものだった。


 ヴィントは続ける。


「遺体は河原で発見された。そのことから、10年前の河原には相当な警備があったんだ。今でも見回りがいるくらいには大事件だった」だからこの間も警察官に声をかけられたのだ。「そんな事件があった河原で、運命の人との出会い? あり得るのか?」

「……事件の前、という可能性もあるよ」


 事件前に出会ったのなら、なんの不具合もない。ただの出会いだ。


「その通り。そして……だってある」

「……つまりヴィントは……って言いたいの?」


 その可能性は僕も考えていた。


 でも、あくまでも可能性だ。他の可能性だってある。


「可能性の話だよ」ヴィントも同じ考えのようだ。「それに可能性なら……雪落ゆきおちさんが犯人だって可能性すらある」

「そうかもね」考えたくはないけれど。「もしも雪落ゆきおちさんが犯人だった場合、彼女の目的は?」

「生き残った長女を殺すこと」自分で言っておいて、ヴィントは肩をすくめる。「だったら女性を探すよな。雪落ゆきおちさんが探していたのは主に男性だ」

 

 だろうな。性転換手術をしているのなら別だが。


 つまり……ヴィントが言いたいのは……


雪落ゆきおちさんの目的は復讐……そう言いたいの?」

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