第30話 50年くらいしたら
「少しトイレに行ってこよう」ヴィントは立ち上がって、「もうこの部室は、そなたたちの部室でもある。存分にくつろぐが良い」
ヴィントはそう言い残して、部室を去っていった。高笑いをする意味はよくわからないが、とにかく騒々しいのがいなくなった。
「ここもハズレだったね」僕が言う。「
「そうですね……もしかしたら、もう存在しない可能性もありますよね……」珍しく弱気な
そうか、その可能性もあるのか。それは考えていなかった。
実際に有り得る話だ。10代のうちに亡くなってしまう人だっている。
そうなっていたら、どうするのだろう。
不意に
「お2人は、仲がよろしいんですね」
「ああ……ヴィントと?」思わず苦笑する。「まぁ……そうなるのかな……」
幼稚園の頃からの腐れ縁。
最近、少し交流がなくなっていて寂しかった。こうして再び巡り会えてラッキーだった。
そんな感情が、僕の口を軽くした。
「ハッキリ言うと……僕は、アイツに憧れてるからね」出会ったときから、今まで……ずっと僕の憧れの人物だ。「子供の頃から、ずっとアイツはアイツのままなんだよ。絶対に自分の信念を曲げないし、緊張とか萎縮とか……そんな言葉とは対極に位置する男」
平凡な僕とは違った。アイツは……僕にはじめて違う世界を見せてくれた人間だった。
どこまでも続くと思っていたつまらない日常。そんな場所から連れ出してくれたのだ。
「能力は高くて、優しくて……それでいてアホっぽくて……辛いものと数学が苦手」今も苦手なのだろうか。「あんな男になりたいなって、純粋に思ったことがあるよ」
身近にいた強烈な人物。今も心のどこかで憧れている人物。
「そのことはヴィントさんには……」
「伝えてるわけないよ。でも……50年くらいしたら、伝えられるかもね」
多少は素直に慣れているかもしれない。いや、さらに偏屈になっているだけだろうか。わからんが……たぶん、ヴィントは僕の隣にいる気がする。
「友情ですね。ロマンチックです」
「……そうかもね」
実際、ヴィントがいたから僕の人生は楽しかった。
考えてみれば、もうヴィントとも10年以上の付き合いなのか。そう考えると長いな。よくもまぁ僕みたいなやつと10年も友達でいてくれて……盟友と呼んでくれるものである。
さて、しかしこれからどうしよう。ヴィントもハズレとなると……
「……?」不意の僕のスマホにチャットが来た。「ごめん」
差出人は……トイレにいるはずのヴィントだった。
『2人で話がしたい』
文面はそれだけ。いつも無意味な文章を付け加えてくるヴィントとしては珍しいことだった。
だからこそ、急いでいるのが伝わってきた。
というわけなので、
「ごめん
「わかりました」
そんなウソだけ残して、僕は青春謳歌部の部室を出た。
ヴィントが僕だけを呼び出した理由は、いったいなんだろう。
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