第28話 恋は盲目

 恋愛相談で相手の名前が言えない……


 言いづらいことだとは思う。だが、名前を知らなければこちらも動きようがない。


「ふむ……」しかし、どんなときでも冷静なのがヴィントという男。「なるほど……名を明かすと不具合があるのだな?」

「……そういうこと……」


 ……


 察するに、アイドルとかだろうか。手の届かない存在に恋をしてしまったということだろうか。


 それもまた青春か。淡い恋の記憶というのも青春の1つだろう。


 ともあれ、どんな案件であれヴィントがくじけることはない。


「いいだろう。だが、相手の容姿や属性……それらのことを教えてほしい。それを知らないと、アドバイスのしようがないからな」


 あやふやな人物像からアドバイスをするようだ。まぁそれしかないな。


 女子生徒は言う。


「容姿は……かなりイケメンだよ。性格はちょっと変わってて……だから好きなんだけど……」変人が好きらしい。「それで……その人は部長をやってるの」

「ふむ……ではその部活を見学して入部してみるというのはどうだろうか。それとも……他校の人なのか?」

「いや……この学校の人」彼女は一瞬天井を見て、「入部か……やってみるよ」


 なかなか行動力のある人物なようだ。そりゃ行動力がないと、青春謳歌部なんていう謎の部活には来ないか。


「ああ。そして、まず相手の好みを確認するんだ。そして価値観が釣り合うかどうか、しっかりと考えろ。一目惚れの感情だけで行動すると、痛い目に遭うこともある」


 その言葉に、雪落ゆきおちさんが少しだけ目線をそらした。耳が痛い話だったのだろう。そりゃそうか。だって雪落ゆきおちさんは……一目惚れの行動だけで10年前の初恋の人を探しているのだから。


 それもまた青春だ。


「もう一度言うぞ。しっかりと考えろ」真剣な顔してると、コイツは本当にイケメンだ。「恋は盲目だ。いや、恋に限らず……重たい感情を持っている人間は盲目になる。ときにその盲目は必要になるが……後悔するときもある」


 盲目になって突き進むことが最善手の場合もある。だが……多くの場合はたどり着いた景色に絶望する。絶望する前に回りをよく見ろ、ということか。


 ……こうやってまともな話ししてたら、さぞモテるだろうにな……なんでコイツ、ずっと中二病をやってるんだろう……


「恋は盲目……」彼女も真剣な顔になっていた。「わかった……しっかりと、考えてみる」

「ああ。また進展があったら教えてくれ。我はいつでも待っている」


 というわけで、同級生少女の恋愛相談は終わった。


 ……


 ああ……


 片思いか。なんとも……タイムリーな話題だったな……

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