学生生活を謳歌できるのか

第24話 とりあえず要注意人物

 生徒会室を出て、距離を取る。


 そして周りに誰もいない場所で、


「疲れた……」僕は大きく息を吐いて、「なんて疲れる会話だ……心臓が止まるかと思った……」

「そうですか?」ケロッとしている雪落ゆきおちさんが怖いよ……「私にとっては楽しい会話でした。意味が分からなくてフワフワしていて……相手の本音が見えない会話でした」


 だから怖いんだけど。


 雪落ゆきおちさんは続ける。


「私と会長さんは、似ています。困ったら適当にはぐらかす。それっぽいことを言って相手の思考を止める。会話を中断させて、核心に近づかせない。そんな会話の技術を持っています」

「……会長は困っていたってこと……?」

「おそらく。だから……変なことを言い出したんですよ。だって会長は……思ってもないことを適当にしゃべって、討論会で称賛されるような人です。波風立てずに会話を終わらすこともできたはずですよ」


 それもそうか……わざわざ副会長を怖がらせる必要もなかったよな。


「じゃあ会長は、なにか隠したいことがあったのかな……」

「そうかもしれません」

「……じゃあ、会長が雪落ゆきおちさんの初恋の人の可能性もあるってことかな……」自分で言ってから、首を振る。「いや……わざわざ隠すことじゃないよね」


 自分が初恋の人だとカミングアウトすればいい話だ。仮に雪落ゆきおちさんから告白されるとしても、告白されてから断れば良い。


 ……


 告白されるのがそもそも面倒って可能性もあるか……? わからん。初恋の人の情報を隠すメリットはある、のだろうか?


「とりあえず要注意人物ですね」色々と注意したほうが良い人物だろうな。「会長の事は私が調べます。今は……他の人を当たってみましょう」

「そうだね」いつまでも会長に固執しても仕方がない。「じゃあ次だね。会長の次に目立ちそうな人」

「各部の部長、とかですかね」

「じゃあ、いい人がいるよ」会長よりも先に紹介しようと思ったくらいだ。「会長と違って、変な意味で目立ってる人がいるんだよ。僕は……まぁ嫌いじゃないんだけど」


 どこの学校にも変人がいるものだ。そんな我が道を突き進む人間のことが、僕は好きなのだ。


「どんな人なんですか?」

「青春謳歌部の部長」

「せ……? なんですか?」

「青春謳歌部。なにをやってるのかは、僕も知らない」僕だって詳しいわけじゃない。「僕と同学年……要するに二年生男子が突然、そんな部活を立ち上げたんだよ。当時はかなり話題になって……今は、どうしてるんだろう……」


 僕も気になってきた。あの変人が立ち上げた部活の末路が気になってきたのだ。


「ふむ……たしかに行動力のある人物みたいですね」河原の女の子に話しかけるなんて、やつなら余裕だろう。「その……青春謳歌部、でしたっけ? どこにあるんですか?」

「……」このまま行くつもりか。僕は疲れているが、彼女はそうじゃないらしい。「こっちだよ。案内するよ」


 疲れているとはいえ、僕も部活のことは気になっていた。


 青春謳歌部とかいう意味の分からない部活の内容が気になっていたのだ。


 せっかくだし……ちょっと部活内容を覗いてみよう。

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