第19話 難読漢字

 生徒会室に向かう途中、


木五倍子きぶし会長は、この時間は生徒会室に?」

「大抵はね」そんなことより、「よく読めたね。結構……難読漢字だと思うけど」


 ポスターに名前は書いてあった。だが……木五倍子なんて書かれていても、多くの場合は意味不明だろう。キブシ、なんて初見ではわからない。


「植物に木五倍子きぶしというものがありまして……それと同じかな、と推測しました」

「なるほどね……」僕も同じように推測した。「博識だね」

「いえ……それほどでも……」


 照れた顔がかわいい。今度からもっと褒めよう。


 さて生徒会室の前に行き着くと……


「……先客がいるみたいだね……」


 生徒会室の扉の付近で、木五倍子きぶし会長を見かけた。


 どうやら他の生徒と会話をしているようである。


 木五倍子きぶし会長に話しかけているのは、おそらく1年生の女子2人。


「あ、あの……会長……」顔を赤くしているところを見ると、会長に話しかけることが目的らしい。「すいません……何度もレポートについてアドバイスを貰ってしまって……」

「大丈夫だよ」会長は爽やかな笑顔で、「生徒会長って言っても、そこまで忙しいわけじゃないからね。俺で良ければ、いつでも相談に乗るよ」

「ありがとうございます……!」


 ふむ……どうやら後輩たちの課題を手伝ってあげていたらしい。


 しかし……後輩たちの目的は明らかにレポートじゃない。恋する乙女の目だった。要するに……会長と会話することが目当てなのだろう。


「モテるんですね」雪落ゆきおちさんもな。「好きな人には理由をつけて会いたくなりますよね……」


 僕みたいにな。僕も雪落ゆきおちさんと理由をつけて一緒に行動している。あの後輩たちと同じだ。


 そしてそれは雪落ゆきおちさんも同じ。10年前の初恋の人を、まだ探し回っているのだから。恋する乙女として共感できる部分があるのだろう。


 まったく……恋は盲目とはよく言ったものだ。自分が恋をしてみればよくわかる。


 ともあれ、女子生徒たちは去っていった。


「さて……」会長は僕たちのほうを見て、「次はキミたちかな」


 どうやら僕たちが話しかけようとしていたのがバレていたらしい。


「会長さん」こういうときに物怖じしないのが雪落ゆきおちさん、「少しお話があるんですが……お時間大丈夫ですか?」

「もちろん」暇……というわけじゃないんだろうな。時間を作っているだけ。「もう学校には慣れたかい? わからないことがあれば、説明するよ」

「私のこと、ご存知なんですか?」

「学校で噂の転校生だよ。なかなかど派手なあいさつをしたみたいじゃないか」


 ……まぁ転校生のことは生徒会長なら把握しているか。それに雪落ゆきおちさんくらい派手なあいさつをすれば、噂なんてすぐに広まるだろう。


 しかし……こうして木五倍子きぶし会長と雪落ゆきおちさんが並ぶとモデルみたいだな。美男美女にもほどがある。


 ……


 僕がとんでもなく場違いだな……なんか悲しくなってきた。


「そのあいさつのことで、少しご相談があります」

「ふむ……なるほど。じゃあ、とりあえず生徒会室に入ってくれ。立ち話もなんだからね」


 というわけで……雪落ゆきおちさんが生徒会室の中に入っていく。


 ……


 僕も入っていいのかなぁ……

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