第18話 強く優しく

「じゃあ、まずは生徒会長から行こうか」


 学校で一番目立つ生徒だ。


「生徒会長は……どんな人なんですか?」

「えーっとね……」僕は廊下の壁に貼り付けられているポスターを指して、「こんな人」


 僕は続けて、そのポスターに対して説明を付け加える。


「なんか地域の討論会とか……その時のポスターらしい。評判が良かったから、こうして張り出されているんだ」

「へぇ……」

「この写真の……一番大きく写ってるのが、うちの生徒会長」


 背が高くてスラッとしている優男である。どこにでもいそうで、どこにもいない男。そんな人物だった。


「生徒会長……」雪落ゆきおちさんはポスターを見て、「討論内容も書かれているんですね……」

「討論の言葉が、しばらくうちの学校での標語になったくらいだからね」

「……ふむ……」雪落ゆきおちさんはその標語を見て、「『痛みを知っている者は、強く優しくなれる』ですか」

「うん」僕は討論内容を思い出しながら、「『誰にだって思い出したくない過去、嫌な出来事、失敗、後悔。いろいろなものがある。それらを知っている人間は、きっと強く優しくなれる。失敗や後悔を未来への糧にすれば良い』って感じかな」

「詳しいんですね」

「僕も出場していたからね」驚かれたので、付け加える。「うちのクラスからの参加者がいなかったから……くじ引きでね」


 それも運命だったのだろうか。僕が討論会に出場することも運命で決められていたのだろうか。だったら神様に文句を言ってやりたい。


 ともあれ、


「……あんまり思い出したくないけどね……」


 正直、嫌な記憶だ。


「あ……すいません」謝る必要はないけれど。「じゃあ……会長に会うのは……」

「大丈夫だよ。どうせ会長は僕のことなんて覚えてないだろうし」僕はほとんど空気だった。「会って話を聞くくらい、どうってことないよ」

「ですが……」

「大丈夫大丈夫」大丈夫だと、自分に言い聞かせたい。「じゃあ、行こうか」


 僕はそのまま生徒会室に向けて歩き始める。生徒会長なのだから、彼もその場所にいるだろう。


 ……


 会いたくないな……

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