第13話 マジで

 その事件は3限目に起きた。


 いや、事件なんて大げさなものじゃない。ちょっとした……騒ぎというだけ。


 3限目の授業科目は体育だった。男子は体育館の中。そして女子はグラウンドでソフトボール。


 そこまでは良い。途中まで授業は普通に進んでいた。


「日差しが眩しいな……」体育教師が窓を見て、「スマン。誰かカーテンを閉めてきてくれ」


 というわけなので、サボる口実をもらったと喜んで僕はハシゴを登った。同じように競技を抜け出してサボろうとした数人もハシゴを登って、カーテンを閉めているときだった。


「……あの転校生……」カーテンを閉めていた1人が窓の外を見て、「マジで運動が苦手なんだな……」


 言われて、僕もグラウンドを見た。


 その瞬間、ライトを守っていた女子にボールが直撃した。高いフライを取りそこねて、額にボールがぶつかったのだった。


 あの髪の毛……雪落ゆきおちさんか。そういえば運動が苦手だって言っていたな。


 その後も雪落ゆきおちさんは……一生懸命プレイをしていた。真剣なのは伝わってくるが、まったく結果が伴っていない。


 打席ではバットに振り回され、守備ではなにもないところで転び、追いかけたボールを踏んでしまってまた転んでいた。


 ……


 雪落ゆきおちさん……すぐに泥だらけのボロボロになる人だな……あんなので日常生活に支障はないのだろうか。階段とか登れるのだろうか。


 そんな姿を見ていた男子たちが集まって、


「やっぱり騙せそうだよな……どんくさそうだし」

「そうだなぁ……初恋の人だって嘘ついてみようか……簡単に信じてくれそうだし……」


 なんか不届き者がいるらしい。とはいえ……僕も同じことを考えたこともある。あれ程の美女が目の前にいたら狂ってしまうのもしょうがないかもしれない。


 ハッキリ言って、僕は雪落ゆきおちさんの初恋の人はすぐに見つかると思っていた。子供の記憶とはいえ、あんな髪の毛の人を忘れるとは思えない。

 仮に忘れていたとしても、エピソードを聞けば思い出す。そう思っていたのだ。


 しかし……これは難航しそうだ。だって嘘つきだっているのだから。全員が誠実に対応してくれるとは限らないのだから。


 ……


 雪落ゆきおちさん大丈夫かな。騙されたりしないかな。

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