第11話 いくらでもありますからね

 転校生美少女との下校。とはいえ話題なんてあるはずもない。


 だが無言のままだと雪落ゆきおちさんに気を遣わせてしまうので……


「初恋の人は見つかりそう?」

「見つけてみせます」決意は硬いようだ。「この学校にいなければ、他の場所も探します。見つかるまで探し続けます」


 ……一度会っただけの人物を探す……その事柄にここまで執念を燃やせるものなのだろうか。恋のエネルギーとはそれほどまでに膨大なのだろうか。僕にはわからない。


「バカな決意だと思いますか?」

「どうだろうね」少し、思う。「でもまぁ……10年前の初恋の人にまた出会えたのなら、それはロマンチックだと思うよ。まるで運命みたいだ」


 僕は雪落ゆきおちさんの運命の人じゃないけれど。


「運命、ですか。だったら良いんですけど」初恋の人が運命の人だったら、どれほど嬉しいだろう。「でも……仮に運命の相手じゃなくても、見つけ出しますよ。運命よりも大切なものなんて、いくらでもありますからね」


 運命より大切なものか……自分の意志とか恋心とか、そのへんはたしかに運命より大切かもしれない。


 自分の意志と力で運命を捻じ曲げる。その決意が雪落ゆきおちさんにはある。


 僕には、ない。雪落ゆきおちさんの運命の相手……その相手と競い合う決意はない。


 僕は雪落ゆきおちさんと運命で結ばれていない。でも良いんだ。彼女が運命の人と結ばれて幸せになるなら、それでいい。


 彼女はまた決意を語る。


「必ず見つけ出して、あの日に伝えられなかった気持ちを伝えるんです。絶対に」


 そこまでの決意なら、僕はもう身を引こう。彼女のことを好きになるのはやめよう。


「手伝うよ。あんまり戦力にはならないだろうけど……雪落ゆきおちさんの初恋の人探しを手伝うよ」

「いいんですか?」

「うん」おもしろそうだし。「転校してきたばかりで、学校のことはよくわからないでしょ? 僕ならある程度は答えられるから……いないよりはマシだと思うよ」

「心強いです」お世辞が上手い人だ。「今日の猫みたいに、あっさりと捕まえられることを願っています」


 猫、か……たしかに僕たちはもう猫探しを成し遂げたのだ。


 ならば……初恋の人も、案外あっさり見つかるかもしれない。


 ……


 ……


 もしも初恋の人が見つかったら、僕はもうお役御免だよな……


 それでいい。

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