第10話 珍しいですから

 夜の河原で僕たちを呼び止めたのは、若い警察官だった。男性、だろう。暗くてよく見えないが。


「もう夜も遅い。子供が出歩いて良い時間じゃないぞ」


 なるほど。夜中に出歩いている子供に注意をしたわけだ。


 たしかに夜だけれど……高校生にもなればこのくらいの時間は外出するんじゃないだろうか。どうだろう。僕には一般的な高校生の感覚などわからない。


 とにかく、適当に謝っておこう。


「ああ……すいません。ちょっと用事がありまして」

「用事……? なにか知らんが、この辺は危ないぞ。昔、あんな事件があった場所だからな」

「……事件……? ああ、そういえばそんなこともありましたね」なんだか懐かしい。「僕の家はこの近くですから……なんとなく覚えています」


 この河原で殺人事件があったというものだ。


 そんなに大きなニュースと事件が近くで起こったのだ。当時は大混乱に陥ったものである。子供は家から一歩も出るなと注意されたものだ。


 とくに僕は……家が近かった。だからかなり恐怖を感じたものだった。


 そういえば……あの事件の犯人って結局捕まったのだろうか。子供の記憶だから覚えてないな。10年くらい前の出来事だからな……


「とにかく」警察官が言う。「子供は早く帰りなさい。なにかあってからじゃ遅いんだぞ」

「はい」まったくもって警察官の言う通りなので、素直に従っておく。「今後は気をつけます」

「分かれば良い」


 そういって、警察官は去っていった。ちょっとした注意喚起に過ぎなかったのだろう。


 働くって大変なんだな……そんな事を考えながら、


「じゃあ、帰ろうか。遅くなったし……家まで送るよ」


 僕はともかく、こんな美少女を1人で帰すのは不安な時間だ。


「え……いえ。もう家は近いので……」

「キミになにかあったら、僕が責められちゃうからね」どうして1人で帰したんだと、文句を言われてしまう。「ボディガードだと思ってよ。頼りないし……僕自身も怪しいと思うけどね」

「頼りないなんて、そんな……それに、怪しくもないですよ」

「そう? ここではじめて会った人間を信じるの?」

「はじめて……?」雪落ゆきおちさんは意外そうに、「私と同じクラスの人、ですよね……?」


 今度はこっちが驚かされた。


「覚えてたの?」


 雪落ゆきおちさんは僕のことなんて見てないと思っていた。


「はい……転校生に興味を示さない人、のほうが珍しいですから」


 ……なるほど……転校生に対して話しかけたりしなかったから、逆に目立ってしまったわけだ。


 今度から転校生が来たら、適度に興味を示そう。そうしないと覚えられてしまう。


「とにかく、雪落ゆきおちさんが許してくれたら送っていく。というか僕がそうしたいんだけどね。これからクラスメイトになるんだし、多少は交流してもバチは当たらないよ」

「……」雪落ゆきおちさんは少し迷ってから、「では……お願い致します」


 というわけなので、なんと転校生美少女と一緒に帰ることになってしまった。

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