第9話 もらってあげなよ
「本当にありがとう……この感謝は絶対に忘れないわ」
飼い主さんはそう言い残して、その場を去っていった。愛おしそうに猫を撫でる姿を見ていると、なんだか勇気を出した甲斐があったと思えてきた。
「ありがとうございました」隣にいる
……
こうして近くで顔を見ると、本当にキレイだな……思わず見とれてしまいそうだ。
「お礼なんていらないよ。僕はたまたま通りかかっただけだから」本当に、ただの偶然。「でも、
「私を、ですか……?」
「うん。
「はい……どうしてそれを?」
やはり
「僕も下校中に出会ったんだよ。髪の毛がフワフワのお姉さんにお礼を言いたがってたよ」
「なるほど……」
「あ……ごめん。失言だったかな?」
「いえ……私、子供の頃からこんな髪質だったんです。だから、あの人にも思い出してもらいやすいかなって」
初恋の人、か。
たしかに……小学生くらいの子がこんな髪型していたら目立つだろう。僕なら一生忘れないかもしれない。
……
僕が覚えてないってことは、やっぱり初恋の人は僕じゃないんだろうな。
「それにしても、困りましたね……お礼なんて、そんなつもりで協力したわけじゃないのに……」
「もらってあげなよ。助けてもらった側は……お礼を言いたいものだよ」
お礼を言えずに別れるとモヤモヤするのだ。
「なるほど……じゃあ、ありがたく気持ちをいただきます」物も渡されそうな雰囲気だったが。「その少年、どこにいるかわかりますか?」
「今から行くつもり?」僕は空を見上げて、「もう夜だよ?」
猫を探しているうちに、すっかりあたりは暗くなっていた。もしも
「あ……もうこんな時間ですか……」
「一応、少年とは連絡先を交換したから。明日、時間ある?」
「明日は……一緒に帰る約束が……」そういえばクラスメイトと約束していたな。「明後日、でお願いします」
「了解。時間は……放課後くらい?」
「お願いします」
というわけで、少年にチャットを送る。目当ての女性を見つけたから、明後日の放課後に公園で待っておいてほしいと。時間は、今日僕と少年が出会ったくらい。
「よし」チャットを送信して、僕はスマホをポケットにしまう。「連絡はしたよ。明後日の放課後」
「ありがとうございます」
深々としたお辞儀だった。毛量がすごいので、もう髪の毛しか見えない。
そして……
「……」
「……」
話題がない。猫探しを終えてしまったら、僕たちの間に共通の話題なんてない。
そもそも……向こうからすれば僕は謎の人物だ。今日学校で見ただけの男の顔なんて覚えているわけがない。
僕からすれば
しょうがない……適当に別れて帰ろう。
というわけで別れを切り出そうとすると、
「キミたち!」突然、誰かに声をかけられた。「こんな時間に何をしている?」
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