第7話 それ、僕のこと?

 猫の捜索開始。


 この近くで見かけたらしいので、遠くに行かないうちに探さないといけないな。遠くに行かれたら、まず見つけられなくなってしまう。


 とはいえ……逃げた猫なんて簡単には見つからない。


 それに……今いるのは河原だ。あんまり真剣に探すと泥だらけになってしまう。まぁ洗えば良い話なのだけれど、ちょっと覚悟が必要だ。


 適当に近くを歩き回っていると……


「……?」


 水色の制服が見えた。うちの学校の制服、だと思う。


 その制服は……草むらに頭を突っ込んでいた。ほぼ地面に寝転がっている状態だった。頭隠して尻隠さずというか……スカートだけ見えていた。


「アイビスさん」猫にも敬称を付ける人だった。「飼い主さんが探してますよ。一緒に帰りましょう」


 ……ふむ……この人が僕の他に猫を探している人か。同じ学校の制服だし……おそらく間違いないだろう。


 そしてこの声は……


雪落ゆきおちさん……?」

「え……?」草むらが揺れる。「私、ですか?」


 どうやら雪落ゆきおちさん本人らしい。


 ……転校初日に波乱万丈な人だな。登校時には子供を助け、そして下校時には猫と飼い主を助けている。


「猫、見つかったの?」

「あ……はい。草むらに隠れていて……」だから雪落ゆきおちさんも草むらに突っ込んでたのか……「どうして猫のことを……?」

「僕も困っている女性を見つけて、猫探しを頼まれたんだよ」

「なるほど……つまり助っ人ですね。ありがとうございます」


 そこまで言って、ようやく雪落ゆきおちさんが立ち上がった。


 そのキレイな顔は泥だらけだった。しかも擦り傷も多数ある。

 そりゃ草むらに顔を突っ込めば、泥も付くしケガもするだろう。


 髪の毛も汚れ放題だった。せっかく美しい髪だというのに。制服もさらにボロボロになっているし……


「挟み撃ちをお願いします」雪落ゆきおちさんは僕に猫じゃらしを渡して、「なんだか私には怯えてしまっているようなので……確保はお願いしてもいいですか?」

「了解」


 なんで猫が雪落ゆきおちさんに怯えるのだろう。顔が泥だらけだからだろうか。


 ともあれ共同作戦開始。僕の自己紹介とかはあとでいいだろう。まずは猫を捕まえるところからだ。


 僕は音を立てないように草むらを覗き込む。すると確かに黒猫がいた。首輪をつけているところを見ると、飼い猫であるようだ。

 

「アイビスさんアイビスさん」雪落ゆきおちさんはその黒猫に向かって、「優しいお兄さんが来てくれましたよ」

「それ、僕のこと?」

「はい」


 別に優しくないけれど、


 ともあれ、僕も雪落ゆきおちさんにならって猫じゃらしを振ってみる。猫のアイビスは猫じゃらしに興味があるのか、せわしなく目線を動かしていた。


 だが……


「警戒されてますね……」雪落ゆきおちさんの言う通りだ。「どうしましょう……」

「……」ちょっとふざけてみようか。「猫語で話しかけるとか」


 冗談のつもりだったのだが……


「あ、それいいですね」雪落ゆきおちさんは一瞬で同意して、「ニャー」


 そんな事を言い始めたのだった。

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