第6話 若返っちゃうわ

 公園を抜けて近くにある川を越えれば、すぐそこが僕の家。


 その川の付近で、わかりやすく頭を抱えている女性を見つけてしまった。


「いったい、どこに……どうして……」


 どうやらなにかを探しているらしい。鍵でも落としたのだろうか。


 ……いつもなら無視して帰っているところだけれど……


 ……


 たまには良いことするか。バチは当たらないだろう。


 僕はその人に近づいて、


「なにかお手伝いできることがありますか?」

「え……?」女性はようやく僕の存在に気がついて、「手伝ってくれるの……?」

「……まず、なにを手伝えば良いか説明してもらえると助かります」


 魔法少女になって敵と戦ってほしい、というのなら引き受けられない。


「うちの猫が脱走してしまって……このあたりで見かけたんだけど、見失ってしまったの……」

「なるほど……どんな猫なんですか?」

「黒猫よ。真っ黒で、世界一かわいいの」主観を伝えられても困る。「名前はアイビス……アイちゃんって呼んでる」

「アイちゃん、ですね。了解しました。僕の家は近くなので……ちょっと荷物だけ家においてきますね。すぐに戻ってきて探します」

「ありがとう……」泣きそうな目をしているあたり、相当溺愛しているらしいな。「あなたの学校の生徒さんは優しのね……さっきも女の子が声をかけてくれて……アイちゃんを探してくれてる」


 うちの学校の生徒……そして女の子……


 まさかね……と思いながら聞いてみる。


「その女の子って、髪の長い女の子ですか? 薄い髪色の……綿毛みたいにフワフワしてる……」

「そうよ。知り合いなの?」

「……知り合いというほどでもないんですけど……」

「じゃあ、片思い?」


 言われて、ちょっと考えてしまった。


 ……


 片思い? 僕が雪落ゆきおちさんに? 


 おいおい勘弁してくれよ。たしかに雪落ゆきおちさんは美人だが、それだけでコロッと好きになるほど僕は軽くないぞ。たぶん。


 とはいえ……


「気になっては、います……おそらく……」完全に興味がないかというとウソになる。「ですが……彼女は僕の顔も知りませんよ」

「片思いなんてそんなものよ」そうかもしれない。「ああ……青春ね。なんか私も若返っちゃうわ」


 気のせいだと思います、という言葉は飲み込んだ。


 ともあれ黒猫探し、開始である。 


 ちなみに……

 

 僕は犬派だ。

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