第5話 綿毛みたいな

 基本的に……僕は面倒事が苦手だ。僕に解決できるとは思えないし……僕よりも他の人を頼ったほうが良いと思っている。


 だが……他に人がいないなら仕方がない。やるしかないならやるよ。


 それは下校中のことだった。もうちょっとで家に到達するというときのこと。


 僕の家の近くにある、小さな公園。遊具も少なくて、手入れもろくにされていない。雑草が伸び放題のオンボロ公園である。


 その公園の中を通るとショートカットになるので、人が少ないときは通っているのだが……


「あの……」とある少年に声をかけられた。小学生、だろうか。「お兄さんと同じ学校に通ってる人だと思うんですけど……知りませんか?」

「……」ちょっと情報が少なすぎるかな……いや、初恋の人よりはマシか? 「失礼だけど……どうしてその人を探してるの?」


 失礼な話だが、この少年がなにか良からぬことを企んでいないとは限らない。


「お礼を言いたくて……」

「お礼……?」

「はい……今日の朝のことなんですけど、僕はここで筆箱をなくしてしまって……」

「……筆箱……?」


 ……どうして公園で筆箱をなくすのだろう。公園で勉強会……?


「あ……その、同じクラスの子に……隠されてしまったみたいで……」

「……」


 そういうことか。いじめ、に近いものだったのだろう。


 僕が少し顔を険しくすると、


「だ、大丈夫です。解決、してもらったので」

「……解決してもらった……誰に?」

「その人を探しているんです」だからお礼を言いたいわけだ。「僕が筆箱を探してたら、一緒に探してくれたんです。草の中とか……木の上にあるかもしれないって言って木登りしたりして。服も破れて、体中が汚れたというのに……」


 ……


「……その人って、髪の長いお姉さん? 薄い髪色の……」

「は、はい……綿毛みたいな髪の毛の人でした」


 ……なるほどね……だからあんなに服がボロボロで髪も汚れていたのか。


 通学途中に困っている少年を助けていたわけだ。僕と違って、なんとも殊勝な心がけである。


 僕の反応を見て、少年が、


「知ってるんですか……?」

「……候補はいるけれど……」

「会いたいです……! 僕、お礼を言いそびれてしまって……あんなに優しくしてくれたのに……」この少年も律儀なものだな……「お願いします……! なにか、お返ししないと……」


 お返しか……たぶん雪落ゆきおちさんは、そんなもの求めてないと思うけどな。

 そもそも、その女の人が雪落ゆきおちさんだと確定したわけじゃない。


 そして……この少年が嘘をついている可能性だって捨てきれない。


 ならば返答は……


「とりあえず……その人で合ってるのか確認してみるよ。もし本人だったら連絡する。キミはスマホとか持ってる?」

「はい」


 今は小学生もスマホを持っているんだな……羨ましい。


 というわけで連絡先を交換して、少年とはその場で別れた。

 

 明日にでも雪落ゆきおちさんに話を聞いてみよう。そう思ってまた家に向けて歩き始めて……少ししてからだ。


 なんだか……今日の僕は巻き込まれ体質らしい。


「ああ……どうしよう……」


 明らかに困っている女性を見つけてしまった。

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