第4話 アホっぽいし

 そのまま放課後になった。転校生の人気は絶大で、彼女はずっとクラスメイトに囲まれていた。僕には関係のない話だった。


「ねぇねぇ雪落ゆきおちさん。家はどっち方向? 一緒に帰ろうよ」

「あ……すいません。今日はちょっと手続きがありまして……」

「あ、そうなんだ。じゃあ……明日とかなら大丈夫?」

「おそらく……」

「じゃあ、明日は一緒に帰ろうね」


 おそらく待つのも負担になると思ったのだろう。女子生徒はそう言って、あっさりと引き下がっていた。


 それから、雪落ゆきおちさんは教室をあとにした。すると教室は落ち着きを取り戻す……かと思いきや、さらに騒がしくなった。


「キレイだったな……」男子生徒が夢見心地の表情で、「あんな人、存在するんだな……」

「わかる……かわいいよな。ちょっとアホっぽいけど、丁寧だし」

「アホっぽいけどな」何回も言わんでいいだろうに。「……初恋の人かぁ……」

「俺だってことにしようかな……」

「……騙せそうだよな。アホっぽいし」


 何回言うんだよ。そこまではアホっぽくないだろ。


 しかしなんか会話が不穏な空気になっているな。


 騙す……たしかにそれは可能だろう。雪落ゆきおちさんの記憶はかなり曖昧みたいだから……『俺があのときの子供だ』って言えば騙せるかもしれない。


 ……そんな輩が現れて、雪落ゆきおちさんは大丈夫だろうか。何度も言われているがアホっぽいし……ころっと騙されてしまわないだろうか。


 ……

 

 まぁ、僕には関係のない話か。仮に騙されたとしても……その嘘を雪落ゆきおちさんが信じれば真実になるのかもしれない。見つからない初恋の人を探し続けるより幸せかもしれない。


 ともあれ、僕には関係のない話だ。


 僕は軽くあくびをして、窓の外を見る。


 代わり映えしない空だった。学校から見る窓の外なんて毎日見ている光景で、面白いものなんて何もない。これまでも、そしてこれからも。


 つまらない日常だ。転校生が来てなにか変わるかとも思ったが……そんなこともないらしい。


 誰かがどこかに連れ出してくれないだろうか。毎日を刺激的にしてくれないだろうか。


 わかっている。そんな事を考えている時点で未来は変わらない。自分から行動しないと僕の人生は変わらない。僕の人生を変えられるのは僕だけなのだ。


 刺激的な毎日を求めているのに、面倒事は避けたい。そんな甘い考えで未来が変わるわけもない。


 教室でボーッとしているうちに、気がつけば周りは静かになっていた。夕日が差し込んできて、そこそこの時間が経過したことを教えてくれた。


「……帰るか……」


 今日始めて言葉を発して、僕は立ち上がった。これくらいの時間ならば下校中に人と出会うこともないだろう。だからいつも学校で時間を潰してから下校しているのだ。


 どうせ帰ってもやることなんてない。だから学校でボーッとしても問題がない。それで誰にも合わずに帰宅できるならラッキーだ。


 そう思っていたのだが……


 面倒事というのは……時間に関係なく訪れるもののようだった。


「あの……」帰り道に、突然少年に話しかけられたのだ。「人を探してるんですけど……」

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