第3話 ロマンチックぅ

「ねぇねぇ雪落ゆきおちさん。好きな食べ物は?」

「結構、辛いものが好きです」

雪落ゆきおちさん、部活とかやってたの?」

「前の学校では帰宅部でした。運動は苦手で……」

「得意科目とかある?」

「国語、ですかね。比較的ですけど」

「今、何問目?」

「4問目です」


 律儀に質問に答えてるなぁ……先生も授業を進める気がないようなので、しばらくは質問タイムが続きそうだ。


 しかし……やはり転校生というのは青春の一大イベントだな。普段はおとなしい人も、ここぞとばかりに雪落ゆきおちさんに話しかけている。


 僕はといえば……我関せずである。どうせ僕が行ったところで彼女と仲良くなれるわけもない。初恋の人とやらが僕なわけもない。


雪落ゆきおちさん」とある女子生徒が言う。「初恋の人って、どんな人? どうしてこの学校にいるって思ったの?」


 それは僕も気になっていたことだ。悪いが盗み聞きさせてもらおう。


「この学校にいるとは限らないんです。近くの河原で10年ほど前に出会って……それから、私は遠くに転校しちゃったんです。でも、どうしても忘れられなくて……」

「だから探しに来たんだ……ロマンチックぅ」ロマンチック、なのだろうか。僕にはわからない。「じゃあ、手がかりはってことだけなんだね」

「そうですね……まだこの辺に住んでる、とは聞いてるんですけど……」


 誰から聞いたのだろう。どうやって調べたのだろう。案外ストーカー気質なのだろうか。ヤンデレなのだろうか。


 ともあれ、女子生徒が言う。


「なるほど……まぁ、この辺に住んでる人の多くは、うちの学校に来るけどね。でも、県外に行ってる可能性もゼロじゃないか……」

「そうですね……それなら県外も探すだけですけど」


 どうしても初恋の人を見つけたいらしい。それほど好きなのだろうか。


「それで……初恋の人はどんな人なの?」

「それが……あんまり覚えてなくて……たぶん同年代くらいだと思うんですけど……」

「そっか……まぁ、小学生くらいの記憶だもんね……」今から10年前といえば、小学生低学年くらいだろう。「手がかりはほとんどないみたいだね……」

「そうですね。でも、諦めるつもりはありませんよ」決意は硬いようだ。「とはいえ……相手も私のことを覚えているかどうか……」

 

 そりゃそうだ。相手から見ても10年前の……小学生の記憶だ。僕だって10年前の僕のことなんて覚えていない。とりあえず……雪落ゆきおちさんを助けた記憶はないけれど。


「私も知り合いに聞いてみるよ。もしも記憶があるなら、反応があると思うし」

「ありがとうございます。もしも私の話をして少しでも反応があるようなら、お知らせください」


 もしも相手が雪落ゆきおちさんのことを覚えていたら、すぐに反応があるだろうな。こんな美少女の初恋の相手が自分だなんて知ったら……僕なら大慌てだ。自分のほっぺたを引きちぎれるくらいつねるだろう。


 ……


 ……


 まぁ、僕には関係のない話だな。

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