第2話 自業自得です

 なんか変なのが転校してきた、という空気が教室を支配していた。


 さっきまでは美少女が転校してきて、一部の男子たちが色めき立っていたのだが……そんな男子たちも声が小さくなっていた。


 そりゃそうだろう。転校早々の挨拶で、名前も名乗らずに『初恋の人を探しに来た』なんて言い始めたのだ。誰だってビビる。僕だってビビる。


「と、とりあえず……自己紹介してもらっていいかな?」

「あ……すいません。ちょっと興奮してしまいました……」


 そう言って顔を赤くした転校生は……紛れもない美少女だった。


 長くてふんわりとした髪の毛。触ったら綿毛みたいにフワフワしてそうだ。薄い髪色も相まって、なんだか雲みたいだった。

 妖精とか精霊とか……そんな存在にすら見える。


 なのだけれど……どうにも砂にまみれている。しかも、どう見てもアホだ。興奮して自己紹介を忘れるくらいにはアホだ。


 教室が少しざわついて、


「なんだあれ……」「すごいアホが来た……」「かわいければ良し」


 そんな言葉がヒソヒソと聞こえた。


 それらの言葉が聞こえているのかいないのか、転校生は悠然と黒板に名前を書いた。


雪落ゆきおち玄羽くろば、と申します」玄羽くろばって読むのか……キラキラネーム? いや、一般的な部類なのか? 「私の目的は、先程申し上げた通り――」

「ごめん……授業始まるから」

「あ……すいません……」


 教師に注意されて、縮こまる転校生――雪落ゆきおちさんだった。


「着替えとか持ってる? ジャージとかでいいんだけど……」

「……ない、です……」転校初日だもんな。「でも、大丈夫ですよ。私はまったく気にしていません」


 服がボロボロで髪の毛に泥がついていても気にしない性格らしい。器が大きいのかアホなのか……


「とりあえず、替えの服は用意しておくよ」

「いえ、大丈夫です。私の責任なので」

「え……あ、そうなの?」

「はい。自業自得です」

「えーっと……じゃあ、とりあえず、空いてる席に座って。窓際の……あそこかな」


 そう言って教師が指さしたのは僕の隣の席――なんてラブコメ展開があるわけもなく、僕とは離れた席だった。


 そして雪落ゆきおちさんが席に座るなり、クラスメイトが彼女を取り囲む。そろそろ授業時間だが……今日の1限目は授業になりそうにない。教師も諦めたようで、1限目は転校生紹介に費やすつもりかもしれない。


 クラスメイトに囲まれて、雪落ゆきおちさんはあっという間に僕の視界から消えた。


 ……


 まぁしょうがない。美少女転校生なんて僕には関係のない話だ。その辺の主人公が彼女のことを幸せにすれば良いだろう。


 それにしても初恋の人ねぇ……


 あんな美少女に恋をされるとは、いったい前世でどんな徳を積んだのやら。

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