9月
暮れ時
日常風景
見慣れた景色。金曜日の昼下がり。睡魔を誘うようなぬくもりのある気温の中の教室で6限目の授業が行われている。教室の扇風機を先生が止めた。人工的な風の音が消える。
誰も一言も発さない静まり返った教室の雰囲気に嫌気が差し、私はゆっくりと窓を開けた。優しい風が吹く。もう9月なのにまだ蝉が鳴いている。
日差しが眩しいため閉められている日光を体内に含んだカーテンが、
息をするかのようにふわりと大きく揺れ、私の体に触れる。
先生がひたすら黒板に文字を書き、チョークが黒板にカツカツ当たる音がする。
私の耳には教室内の物音より外の雑音が鮮明に聞こえる。
鳥の話し声や揺れる木と舞う木の葉。隣の小学校から聞こえる体操の掛け声。
大きく息を吸い込めば生ぬるく包容力のありそうな落ち着いた風が私の全身を巡り、鼻腔を抜けていく。あぁ、心地良い。
板書に飽きた私は風で揺れるカーテンの隙間から外を見ていた。
この変わらない光景をあと何回見ることができるのだろうか。
少し遠くを見れば大きなクレーン車が鉄骨を持ち上げている。
少し奥には青々しい立派な山が見えている。
明日には見られなくなるものはあるのだろうか。
この雲は明日になるとどこを流れるのだろうか。それとも流れず消えるのか。雨になるのか。
寝ているクラスメイトを起こす先生の声はあと何回聞けるのだろうか。
あの蝉の鳴き声は明日も聞けるだろうか。私は明日も生きているのだろうか。
また学校に通えるだろうか。今日のような風はまた吹くのか。
山の奥に大きな入道雲が見える。
あ。このままじゃ雨が降りそう。傘は持ってきていない。
自分にとって苦手な授業を受ける時、私はいつも余計なことばかり考えてしまう。
あぁ、ほらまた。左手に握っているシャーペンは走らせずに頭ばかり働かせている。
ノートを取らなければ。シャーペンを走らせながらまた私は蝉の声を聞く。
9月 暮れ時 @shst32
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