女神の部屋

矢武三

女神の部屋

「はい~次の方、どうぞ~」


「よろしくお願いします」

「えー……18歳、大学一年生。異世界に行きたくてトラックに飛び込んだと」

「はいそうです」

「あんたバカなの?」

「はい?」

「同じ死ぬなら、人を巻き込まない様に死になさいよ。轢いちゃった運転手さんの気持ちを考えた事……無いからそんなことしちゃうのよね」

「そ、そこですか。すいません」


「それで……っと。あんたの転生先は、

『極寒の村サブ―の厳格な刀匠カッタナーさんの三番弟子16歳がスタート。毎日クソッカスにしごかれシバかれながら50年頑張って、伝説の銘刀ムラヤマを打ち終えて大往生する人』……これになるけど」


「え、他に無いんですか」

「無いわね。選択の余地無しなのウチの場合。イヤなら現世に戻って飛び込み前からやり直し」

「……現世でやり直します」

「はい了解。お帰りは右手の『撤回ルーム』ね。もしリトライするつもりなら、トラック使っちゃダメよ。まあ頑張って」

「ありがとうございました───」




 ▶▶▷




「次の方ぁ~」


「デュフフフ、女神さまめちゃ美人。デュフフフフ」

「……37歳ニート。カップ麺に入れた餅を喉に詰まらせた……ねえ」

「"あけおめ"だしお餅入れちゃえ~みたいな。デュフフフ、掃除機がいいって聞いてたけど間に合いませんでした。デュフフフフ」

「ちょっとあんた、アタシがいいって言うまでその笑い方禁止」

「デュフフフフ、わかりました。デュフフフフ」

「光子に分解してやろうか」

「デュグッ、き、気を付けます」


「えー、あんたはね、

『田園風景が美しい街デネンの子爵家嫡男10歳スタート。イケショタで剣と魔法の才覚に溢れ、15歳の誕生日に勇者として巨乳美人で幼馴染の神官の彼女を連れて魔王討伐に向かう人」


「ングッ、そ、それメチャクチャイイですね。ぜひゼヒお願いしまあす」

「じゃあそっちの左手の部屋『転生ルーム』に入って」

「あの、もう笑っていいですか」

「ダメ。転生後に思う存分やって頂戴」

「ありがとうございましたああぁぁぁ……デュフフフ……───」


「───なんでああいうのにイイのが当たるのかしら。あー鬱陶しい」




 ▶▶▷




「次、どぉぞ~」


「お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

「何だかバカ丁寧だと思ったら、28歳サラリーマン。月間残業時間200時間越えの末……か。いつまで経ってもこのパターン減らないわね」

「そうなんですか」

「生前は真面目一徹、勤勉そのもの。あんたみたいな人にこそ転生後に報われてほしいってのが、人情ならぬ神情なんだけどねえ」

「お気持ち本当に嬉しいです」


「あんたの場合は……ああ、これね。

『静寂の森セイジャックに棲むスライム』」


「わかりました」

「えっ、何か反応は無いの」

「いいんです。静寂の森っていう響きがいいですね。別に希望は無いんです。森の腐葉土あたりをモソモソ食べながら、ただ静かに、だらりと半透明の身体を引き延ばして暮らしてるっていいなあって思って」

「ううう……」

「ど、どうしたんですか」

「あんた、そんなに若くして達観しちゃって。もっと現世で選択肢があるでしょうに。本当にやり直さなくていいの」

「はい。スライムでお願いします───」




「───転生前にひとつ。ねえあんた、ウチで働いてみない」

「はあ」

「事務方で枠がひとつ空いててね。エクソルの1級免状があるなら即戦力よ。それにウチは神様カラーそのままにめっちゃホワイトだから。週休三日、九時五時の残業無し忘年会無しの無し無しで、福利厚生は有り有りよ」

「お気持ちだけいただいておきます。スライムで大丈夫ですから」

「そう……わかったわ。新しい人生じゃない、スライム生を頑張ってね」

「お心づかい一生忘れません。ありがとうございました」




「はあ~……

 アタシ、何でこんな仕事してるんだろ」




 ▶▶▷




「ちぃ~す。四股のカノジョに刺されちゃったオレ、入っちゃってもいいっすかあ」

「もっかい死ねッ」



<おわり>



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