三人の英雄、その後(仮)

ももたろ

はじまり

伝説である神話の時代からおよそ数百年の時が経ち、かつて世界樹の存在した座標と同じ位置に、新しい命が 生えました。

それと同時に、当時栄えていた奴隷を主に扱う国で、一人の少年が誕生しました。 少年の名はケテル。王国創立に助力した英雄です。

ケテルは、幼い頃から剣が大好きで、暇があればすぐに剣を振っていました。 剣、と言ってもそれに似た木の枝ではあったのですが。

ケテルは成長していくにつれてその多大な才能を次々に発揮していきました。 しかし、ケテルの親はそれに反対しました。

一族はずっと勉学に励み、学者をやってきたのだからお前もそうしなさいと、枝を折られたのです。

ケテルは自分が認められないことを深く悲しみました。

それでもケテルは心を折らず、環境に染まらず、自らの世界を疑問に思いました。

そしてそんな ケテルの生活に、希望と転機が訪れました。

幼馴染のイヴァンとエレオノーラの存在です。

二人はケテルを認めてくれました。

イヴァンの生家が裕福だったこともあってケテルはまた剣を続けることができました。

やがて三人は成人し、立派な大人になりました。

イヴァンは家を継ぎ、ケテルはその護衛になりました。エレオノーラは実は王族だったということを明かして女王になりました。

順風満帆で平和な日々が続きますが、そこで恐ろしいことが起きたのです。


「はい、時間が来ちゃったので今日はこれでおしまい!」

「えーどうなったのー?」

「それはまた明日ね。じゃあ、さようなら」

「「さようならー!」」




◇◇◇




「これ、外務署に運んでおいて」

「わかった」


濃かった子供時代は、いまやとうに過ぎ去っていて、最近は特に楽しいこともなく書類だらけの日々。 僕の名はイヴァン。公爵家次期当主だ。

ケテルと一緒に勉強を叩き込まれて王立の学園に入り、無事卒業した。 剣を使えることは彼、ケテルを買うと決めたとき手のマメで分かっていた。

だからその時からケテルには僕の護衛をやってもらっている。

確かに彼は僕の奴隷だが、それ以前に友人だからね。信頼して任せた。

そしてもう一人仲良くなった人が───


「イヴ、例の件なんだけど」


僕のことを何やら愛称で親しげに呼んでくる彼女は、学園時代の友人。エレオノーラだ。

次から次に争い事や厄介ごとを呼んでくるケテルが、入学当初絡まれていたからと助けたことで仲良くなった。


「ん、なにか進展あった?」

「いや、特には。古代魔術の弱点が解明できたくらいなんだけど、」

「進展っていうんだよそれ」


エレオノーラは無邪気に笑った。

後からその点を書いたであろう紙の入った封筒を出した。


「これに書いてあるよ」

「読んでいい?」

「いいよ」


承諾を得て僕は封筒から中身を取り出す。

中には飾り気のない普通の用紙と、鍵であろう赤色の石が同封してあった。 そして紙には確かに、古代魔術の発動を阻止する手順が書かれていた。

読み解いていくうちにこれまで疑問だったことがすべて解けていく感じがした。


「うん、ありがとう」

「どういたしまして。ケテルにも渡しとく?」

「いや覚えたからいいよ。あとで教える」

「何度もみてるから驚かないけど、すごいよねイヴの記憶力」


エレオノーラは呆れたようにこちらを流しみたあと、素早く手紙を燃やし尽くした。


「それだけが取り柄だからね」

「そう」


エレオノーラはもう用はないとでも言いたげに手を振り、ドアノブに手をかけた。

しかし思い通りにはいかず、イヴァンに引き留められた。


「ていうか、今魔法使ったでしょ。ダメって言ったよね!」

「気のせいじゃない」

「これ見よがしに手紙燃やしたのみたよ」

「……じゃ」

「あ。 ────────もう……」


エレオノーラは耐えきれずに駆け足で執務室をあとにした。

でも魔法という未知の力はそれだけ危険で使い道がある。誰かに見られでもしたらすぐ騒ぎになってしまう。

軽く説教でもしようかと呼び止めたが、認める前にどこかいってしまった。 イヴァンは疲れたとため息をついた。


「イヴ、帰ったぞ」


つい先刻エレオノーラが慌ただしく出てきちんと閉まっていなかった扉が軋んでで開き、外務署から新たな書類を もらってか、両手いっぱいに資料の山を抱えているケテルが戻ってきた。


「お疲れ様。早かったね?」

「全速力で走ってきたからな」


ケテルから書類を受け取り、エレオノーラが古代魔術の対処について突き止めたことを知らせる。

それと、一流工技士によって設計された、万が一間違いがあっても軋むことはないような最高級のドアが、何故 か音をたてることについても簡単に説明した。


「さっきのはエレノアの仕業か」

「うん思いっきり叩きつけてたから」

「──しかし、古代魔術だな。解明されたなら奴らを倒すのも夢じゃない。

「詳しくあとで話すよ」


心なしかいつも無表情なケテルの顔も輝いている気がする。


「じゃあ、俺はまた素振りをしてくる」

「被害は出さないようにね」

「わかっている」


ケテルは浮き足だった様子で鍛錬に出かけた。

きちんと閉まった扉をみて、ふと物思いに耽る。 将来の不安について。


「(大丈夫なのかな)」


数十年前突如現れ、大陸各地で甚大な被害を出している通称“凶星”。

大陸全体が一丸となって討伐を試みているにも関わらず、それはいままで存在し続けている。

しかも、今いるこの国クルーエルは中でも大きな被害を被っており、凶星討伐に人一倍力をかけていた。

ケテルの話す、調わゆる自由に同様憧れてしまったタチだから、必要になるであろうお金のために数年前、討伐 を王に誓った訳だが...。


「(全然目処がたたないんだよね...)」


我が家が誇る巨額の富で、一応討伐のための食糧や軍事品などは揃えられるつもりだけど、いかんせん力が足り ない。

報酬はあとの騒動を避けるため他家に頼るようなこともできずにいる状態だ。

もはや家の財産を持ち逃げしたいけど隠れながら生きるというようなことはお断りで…。


「─────────」

「!」


ケテルの素振りの音が三階なここまで届く。

凄まじい風を巻き起こす轟音だ。

そして思いつく。いっそのこと、二人で討伐に出掛けてはどうかと。




◇◇◇




ケテルは、無駄な労力を割かず一番実現可能なイヴァンの案を採用した。

それはケテルが戦闘に飢えていたこともあり、また二人でならきっと上手くいくという根拠のない自信の表れでもあった。

無謀だが、たった二人くらいなら少し試してもいいだろうと考えたのだ。

それでなぜエレオノーラを含めて三人と言わないかだが、ノアにもちゃんと役割を考えてある。

目的に向けて順調にことを進めていく中、どう考えても生まれのこの国が邪魔することがわかった。

自分たちはとっても、重要な立ち位置なため個人的に動くと変に勘付かれて悪い噂を流されてしまう、国民たちの信仰心をなくして反乱をおこされないようにするためだ。

かといって国に案するわけにもいかない。絶対にめんどうくさい条件や報酬を要求してくるから。

それで目標を達成する過程で、クルーエル国を破滅に導いた。

すこし国一つを相手にするには軽すぎる理由かもしれないが、もともと我が国の上層部は不正が横行していたの で、それらをちょっと調べて発表すればいいだけなのだ。

イヴァンが先導して数年の間に上層部が総て入れ替えられて、運営を一変させた。

そして殆ど臣下の傀儡となっていた愚かな王をケジメで処刑し、新たな王にはエレオノーラを据えた。

エレオノーラは有能だし人の心に共感する力が高いから、いい王になるだろう。

慌ただしい日々を過ごし、また数年後。国内が安定してきたところに二人は当初の目的の遂行に進み出すことを 決意した。

晴れた日の早朝。国の門の前に、三人の男女がいる。すっかり女王の顔になったエレオノーラ、真剣な眼差しを したケテルと、いつものように変わらない笑みを浮かべているイヴァンだ。


「それじゃあ僕らは元凶を倒しにいってくるから」

「わかったわ」


イヴァンの言葉に、思わず思い出のペンダントを握りしめる。

辛そうなエレオノーラにケテルが近づいて、口を開いた。


「国を、任せた」


ケテルはエレオノーラの肩に手を乗せ、柔らかく微笑む。 エレオノーラはそんなケテルの顔に感極まったように涙を流し、二人の肩を抱き寄せ。


「...二人とも死なないでよ」

「もちろん」


イヴァン いつも通りの様子で力強くうなづいた。 ケテルも無言で同じように肯定している。


「そう、じゃあ、いってらっしゃい。」


背中を押し、送り出す。 そして二人の姿が完全に見えなくなった時、エレオノーラは何かを飲み込んで静かに呟いた。


「待ってるから」




◇◇◇



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