第46話 今度は
「じゃあ、お茶持ってくるね」
「うん、ありがとう、桃華」
今日は、私の家で勉強会だ。自分の家では気が散ってしまう、と渚が言ったから。
両親はまだ仕事から帰ってきていない。慣れたシチュエーションだけれど、だからといって二人きりなことを意識しないわけじゃない。
「……テスト、どうなるかな」
冷えた麦茶をコップに注ぎながら、テスト後の状況を想像してみる。
もし渚が負けてしまったら、私は草壁とデートをしなければいけない。そうなれば渚は、もっと私に独占欲を向けてくれるんだろうか。
渚、いい加減、私への気持ちが恋だって思ってくれないかな。
そのために、草壁への嫉妬心を煽ってるんだから。
草壁には悪いことをしていると思うが、これも私が無事に渚と付き合うために必要なことだ。
「……まあ、渚に勉強頑張ってほしいって言うのも、本音だけど」
本当は渚と同じ大学に行きたいが、渚の学力的にそれは厳しいだろう。
とはいえ、補習にでもなってしまったら大変だ。そこで草壁と仲良くなってしまうかもしれないのだから。
二人分のコップと、渚の好きなバター味のポテトチップスをお盆にのせる。
こぼさないように階段をのぼって、部屋の前で渚に声をかけた。
「渚、開けてくれない?」
「すぐ開ける!」
バタバタと慌てた音がし、すぐに扉が開いた。
……なんか、ベッドの枕の位置、変わってない?
「渚。ちゃんと勉強してたの?」
「うん」
開きっぱなしのノートを覗き込む。案の定、一行も進んでいない。
「渚」
「……ごめんって。その、ちょっと休憩しようかなって」
「それで、ベッドで寝てたの?」
「……うん」
気まずそうに渚が目を逸らす。
「集中しないと、とは思ってるんだけど……ほら、ここ最近あまりにも勉強ばっかで、疲れちゃって」
確かにここ最近、放課後は毎日私の家で勉強会だ。
今までの渚と比べれば、かなり真面目に勉強している。
「……確かに。お菓子でも食べながら、ちょっと休憩する?」
ポテトチップスの袋を見て、渚は瞳を輝かせた。
分かりやすくて、本当に可愛い。
「する!」
はしゃいだ渚がポテトチップスの袋をパーティー開けして、テーブルの上においた。
「ねえ、桃華」
「なに?」
「私たちたぶん、同じ大学には行けないよね」
「……」
そうだね、と言うのが少し怖くて、私は何も言えなくなってしまった。
私と渚は、前の人生でも大学が違う。だからといって疎遠になったわけではないし、大学時代だって頻繁に会っていた。
でもやっぱり、学校が一緒だった時とは違う。
だけど、もし付き合えたら、大学が違っても同棲できたりして、日常を一緒に過ごせるのかな。
渚と一緒に住めたら、どれだけ幸せだろう。
「ちょっと泣きそうな顔しないでよ!」
渚が慌てたような声で言って、私の背中をさすってくれた。渚の瞳に映る私は確かに、泣きそうな顔をしている。
「桃華って、私のことめちゃくちゃ大好きだよね」
「うん」
自分から聞いたくせに、渚は恥ずかしそうに目を逸らした。そういうところも大好きだと追い打ちをかけてしまいたい。
「さっきの続き教えて。同じ大学は無理だろうけど、せめて近くの大学に行きたいし」
「うん」
渚と離れるなんて考えたくもない。遠距離になってしまわないためにも、渚にはちゃんと勉強してもらわないと。
「その代わりテスト終わったら、いっぱい遊ぼうね、桃華」
「うん。夏休みだし」
テストが終われば、すぐに夏休みだ。
渚と草壁の記念日は8月25日。
今度は絶対、その日を二人の記念日になんてさせない。
次の更新予定
二度目の人生は、全力で貴女を落とす〜最愛の幼馴染はもう誰にも渡さない〜 八星 こはく @kohaku__08
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