第4話 ボンネットバス
隆は洋一と、勲叔父さんの家に向かった。
途中、隆の推理を話した。
「ほんまに、4時間目に教室、出たものはおらんかった?」
洋一はうんざりした様子だった。
「便所に行ったのが一人おったくらいやって。あいつは腸が弱いから、めずらしいことやないで」
隆は、痩せて青白い顔をした博文が思い当たった。
「おっちゃん。肝油ドロップのような飴、町に売ってへん?」
隆が訊いた。
「あるけど、味は全然違うで。なあ、修司」
勲叔父さんが修司を見ると、修司がうなずいた。
洋一たちのクラスメイト・博文は、中学生にあがって父親を亡くした。
博文の父親は商店街の酒店でよく飲んでいた。隆たちが下校する時刻には酔って大声を張り上げ、ほかの客ともめ事を起こしていた。たまに店の前で寝ていることもあった。博文の母親はそのたびに、引きずるようにして父親を連れ帰っていた。
文房具も買ってもらえないのか、走ると、短い鉛筆が筆箱でカタカタ音を立てていた。消しゴムは炊いた大豆のようだった。博文が昼休みに校庭に出てくるのは、弁当を持ってきてないからだ、と子供たちは話していた。
博文の父親の死因はがんだった。
満州(中国東北部)出征から帰ってしばらくして、健康を害した。回復はしたものの、常に何かに怯え、酒が入るとブレーキが利かなくなった。博文の母親が幸せな結婚生活を送ったのは、復員後、博文が生まれるまでの5年間だけだった。
「博文。肝油ドロップ、食うか?」
洋一はさり気なく缶を差し出した。
一個、口に運び、博文は顔をしかめた。博文は下を向いたままになった。何か言おうとするのを、隆が
「これ、ボクの肝油ドロップ、食べかけやけど、あげるわ」
博文と母親は引っ越した。
隆と洋一と修司は、バス停に見送りに行った。
満員の乗客を乗せ、I街道をボンネットバスがゆっさゆっさと近づいてきた。
いつまでも乗ろうとしない博文を、3人でバスに押し込んだ。
続 村の少年探偵・隆 その5 肝油ドロップ 山谷麻也 @mk1624
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