第3話 初物

「お兄ちゃん。ほんまに肝油ドロップ食べたの?」

 家に帰ると、和子も同じことを言った。

 和子は、洋一が昼間見た缶を持っていた。小学生全員に配られたらしい。


 クラス全員が順に、肝油ドロップの缶を取りに行った。午後の授業が始まり、ある子が先生に訴えた。

「ボクのドロップ、誰かが食うてました」


 担任はみんなに問いただした。みんな、顔を横に振った。

「和ちゃんのお兄ちゃんが教室にいました。ドロップの缶もってるところ、ボク見ました」

 ほかにも目撃者がいた。


 和子の話を聞き、洋一は怒りが込み上げてきた。

「お兄ちゃん、やってへんで。お前、殴られるぞ」

 洋一は家を出た。隆と修司に会いたくなった。


 隆は洋一を疑っていなかった。

「あの話やろ。おかしいよなあ。だけど、洋ちゃん、なんで缶もってたの?」

 隆も音楽教室から帰り、確かに、洋一がドロップの缶を持っていたところを見ていた。

「釣りのエサ入れに、ちょうどええかなと思うたんや」


 洋一は生徒指導室で、一方的に犯人扱いされたことを話した。

「小学校と中学校が同じところにある学校で、小学生にだけあんなの配ったら、中学生やって欲しくなるよなあ」

 隆が言うと、修司も同じ意見のようだった。


「中学生がやったのか。だけど、和子の教室に誰もおらんようになったのは、4時間目だけやろ。授業中に抜け出して、和子の教室に行くなんて難しいで」

 洋一は考え込んでいる。

 隆は肝油ドロップを1個ずつ、洋一と修司にやった。

「へえ。こんな味やったのか。うまいなあ」

 洋一と修司は顔を見合わせた。

「そうやろ。和ちゃんにも、もらいな」

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