ゴソゴソ

バキボキ


『はぁ・・・はぁ・・・痛い・・・こんなとこ・・・走れないよ・・・はぁはぁ・・・』


釜田に引っ張られ草藪の中、木々を避けながら走った。

青々とした若い草や木の枝で身体中に傷を付けながらひたすら走った。


『人間は軟弱だな。』


足を止め釜田に文句の1つでも言おうと思ったが、態度は冷静なのに焦りのある悲しい表情を見てしまった為、陽日は文句を言うのを止め釜田に引かれるがまま黙って走った。


そして、数十分走り


『着いたぞ』


釜田がそう言い、疲れて乱れた呼吸を整え、下を向いた顔をあげると、目の前に広がるのは大自然に囲まれた古き良き日本家屋が並ぶ小さな村だった。


『こっちだ。来い。』


歩き始めた釜田についていく。


すると村の隅にある一軒家に着いた。


トントンと戸をを叩く釜田。

『おーい、じっちゃん。いるか?』


ガラガラと戸が開き、現れたのは髪も髭も真っ白で背の低い小太りで渋さと優しさがうまい具合に合わさった角刈りの老人が出てきた。


『かま坊か。入れ。ん?その子は?人間か?』


釜田は、陽日の手を引き家の中に入った。


『人間だ。それもおかしな人間。役に立つかもしれない。』


釜田は老人に陽日を紹介した。

そして、家に入ってすぐ左にある客間に入り、3人とも腰を下ろした。


『それで、お嬢さん。名前とに来た理由を言えるかい?良ければ聞かせてはくれまいか?』


老人は少し険しい顔で陽日に尋ねるが、急に笑顔になり笑い始めた。


『すまんすまん!こういった時は自分から名乗るのが礼儀じゃったな!わしは親のいない釜田を育てた、茶釜 吉次ちゃがま 《きつじ》と申します。』


吉次は陽日が怖がらないよう最大限の注意を払い質問していく。


『陽日って言います。ここに来た理由は...』


陽日は緊張しつつも吉次にこの世界に来た経緯を事細かに話す。


陽日の話が終わると吉次は何か思いついたように立ち上がり、部屋にある棚から植物の葉を1枚取り出してきて陽日の頭に乗せる。


『お嬢ちゃん、そのまま狸か狐を思い浮かべ集中して「ポン」と言ってごらんなさい。』


陽日は戸惑いながらも言われるがままやってみる。




『ポン!』



モヤモヤと白煙が陽日の全身を包んだ。


そしてその白煙が消えると美しい狐が姿を現した。


『こりゃ驚いた。妖力が強い人間とな。』


釜田も吉次も驚き唖然とし陽日を見つめる。


『すごい!私、狐になってる!?』


陽日は狐に変身した自分の手足を見て驚くどころか興奮していた。


『普通の人間は変身できないのじゃ。できる人間も稀におるが、できる人間でもたった1度で変身してみせる者はおらん。』


吉次は陽日に変身について説明し始めた。


そして、一通り説明を終えると吉次は本題に入った。

真剣な面持ちで陽日を見つめ野太くしゃがれた声で話し始めた。


『お嬢ちゃんがこの世界に迷い込んだ経緯、何をしたいのかはだいたい把握した。わしらはこれから、その狐の嫁入りを阻止し、再び平等で平和な世の中を取り戻したいのじゃ。』





昔、動物達は皆平等に平和に暮らしていた。

弱肉強食の世界ではあったが、人間とも他の動物とも手を取り暮らしていた。

だが、人間が力を持ち、知恵を持ち、自立し


自分達だけの世を創り上げた。

我々動物達はそれをすごいことだと思い人間の真似をしたのだ。

その中で特に狸と狐は人間に近づいたのだ。

化ける術を覚え、人間に化けては人間から知恵を授かろうと、人間に近づいた。

そして、狸と狐は人間の言語、知識や文化など覚え、自分達だけの世界を創り上げた。

それまでは良かった。平和だった。


だが、ある時、神と讃えられる狐が現れた。

その狐は人間と狐の共存を望んだ。

人間と狐は最初こそ小さな範囲で共存していたが、ある時、人間は狐の妖術と才能に恐れ、狐は人間の知識と力に恐れ、争いが始まった。

最初こそ、小競り合い程の小さな小さな争いだったが、次第に争いは激しさを増した。

その中でついに両者から死者が出てしまったのだ。

そこで人間と狐は「共存できない、分かち合えないのだ」とし、決別したのだ。


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はるひと不思議な嫁入り狐 雀三世 @himerinn

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