その日の天気雨は少し強かった


ポツポツと降り出した雨だったが、少し勢い増し、強めに降り出した。

それでも、空は快晴。


そして、鈴や笛、太鼓の音が聞こえ始め、その音の中にお経の様な呪文と元気の良い掛け声があり、こちらへだんだんと近づいてくる。


シャンシャン

ピー

どんどん

『よいーよいーよいーよいっ』

『この〇✕△□〇✕△□〇✕△.....』


はるひは急いで身を隠し行列を待ち構えていた。



そして、私たちは再び出会い、お互いをちゃんと認識した。



コハルの乗った籠が陽日の目の前を横切る。

少し開いた障子窓から陽日を見つめるコハル。

目が合う2人。

コハルの頬を1粒の涙が伝う、嬉しそうで悲しそうな笑みを浮かべた。

陽日はその表情を不思議そうに見つめるだけだった。


『・・・けて』


涙が溜まり潤んだ瞳がじっとこちらを見つめ、艶やかな唇を小さく開き、か細く震えた声でコハルが何か呟く。


そして、陽日の前を行列が過ぎ去る。


『あっ。追わなきゃ。』


狐の嫁入りに再び遭遇したら跡を付けようと思っていたことを思い出したのと、コハルのことを放っておけない気持ちで陽日は走り出し、行列を尾行した。

だんだんと深い霧がかかった暗い森の中に入っていった。

陽日は途中で行列を見失った。

辺りをキョロキョロと見渡すと、少し離れた所に火が灯った。

近づくとその火は火の玉だった。

火の玉は2列に並んでいて、先へと続いていた。

ゆらゆらと揺れ、辺りを灯す火の玉を伝って先へと進む陽日。

すると、大きな鳥居が姿を現した。


『おばあちゃんが言っていたのって・・・』


ウカの言っていた事を思い出し、鳥居を潜る。

ウカの言っていた通り、鳥居を潜ってすぐに一体の狐の像が陽日を出迎える。

その奥の方から、嫁入り行列の祭囃子の様な音が薄らと聞こえてくる。

音の鳴る方へ歩を進めると明かりのついた小屋にたどり着いた。

そして、陽日はただひたすらに好奇心でその小屋の戸を開けて小屋の中に入った。


『なにこれ・・・』


小屋の中は静かで薄暗い森で、戸を開けてすぐに長い石段が上へと続いていた。

陽日がその石段を登ろうと1段目に足を掛けた時。



カランカラン

『何者だ!侵入者か!』


と、何かが声を荒らげる。


すると、石段横に広がる森の茂みからガサゴソ、バサっと何者かが飛び出し、その何者かが陽日を掴みまた茂みへと戻る。


『しっ。喋るな。バレてしまう。』


陽日を掴み片手で陽日の口を押さえた何者かが、石段の方を見つめ、陽日に注意する。

その者の歳は陽日と近いくらいで、痩せ型だが少し筋肉質でツンツンとした髪型で肌は少し色黒で、声は中低音で爽やかな少年だった。

陽日は抜け出そうにも、その者の力がとても強く、抜け出せなかった。


『ネズミか何かか?』

『ああ。警備は完璧だったからな、そうだろう。』


声を荒らげていたのは、人間の体をした2匹の狐だった。

2匹の狐は陽日たちの近くまで来て辺りをキョロキョロと確認し、何も見つけられなかったので勘違いだと思い立ち去った。

それを確認すると、陽日を押さえていた何者かが陽日を離した。


『悪かったな。』


『誰!?』


陽日を押さえていた何者かが陽日に謝る。

陽日は頭の中がごちゃごちゃして尋ねる。



『・・・俺は釜田。お前と会うのは2度目だ。』


釜田は陽日の焦りと勢いに呆気にとられたが、とりあえず自己紹介を始めた。

そして陽日は鎌田の「会うのは2度目」という話に頭を悩ませた。


『お前、前の狐の嫁入りで俺にガン飛ばしてただろ』


なんと釜田はあの時の狸だった。

陽日は驚き腰を抜かした。

そんな陽日の手を掴み、陽日を立ち上がらせ、釜田は陽日を連れ歩き始めた。


『ここじゃなんだ。少し来い。色々と話したいことも聞きたいこともある。』


そう言って、釜田は陽日を連れていくのであった。



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