第7話:エリアル族のベリオール
時折聞こえてくる巨人の絶叫と、棍棒が何かを砕く音が突然やんだ。
辺り一面に漂っていた濃霧が段々と晴れていく。
霧が完全に晴れると、赤い血溜まりに頭を突っ込んだ
「なんだこれは」
辺りの木々はなぎ倒され、何本もの亀裂が入った地面には抉り取られたような跡が残っている。
激しい戦いの跡がそこにはあった。
今まで数多の魔物を倒してきたが、ここまで激しい戦いの跡は数えるほどしか見たことが無い。
大型の魔物との戦いは得てして激しい戦いになりがちであるが、それにしても相手はただの青年一人だ。剣術が得意だとかぬかしていたが、普通は巨人相手に剣術など意味が無い。サイズが違うのだ。
一方的な戦いになると思っていた。
しかしあの青年は勝ってしまった。
もしもの事があった時のために握っていた魔法石を下着の中にしまう。
青年は足音で気がついたのか、こっちを見てニヤニヤと笑っている。
「ピーちゃんの仇、とったぞ」
「ピーちゃんをやったのはおめえだろうが」
「あっはっは、そういえばそうだったな」
「まさか本当にやっちまうとはなぁ。はっきり言ってまだ信じられねえよ」
「言っただろ、俺は魔術も使えるんだって」
「いやおまえ…………」
これ魔術どうこうの話じゃねえだろう。
たとえ霧の魔術が達人級だったとしても、霧の魔術で魔物を殺すことはできない。
誰だって知っている。霧の魔術に攻撃力はない。
明らかに死因は喉が切り裂かれた事による失血死だ。
しかしこの
相当な剣の腕が無ければこんなことはできない。
魔術がどうだなんて言うのは俺から言わせれば屁みたいなもんだ。
そもそもピーちゃんだって、この
アレは俺が従える使役獣の中でも飛び抜けて頭のいい魔物で、野生の劣等竜なんかとは比べものにならないほど強い。警戒心も飛び抜けて強く、ピーちゃんが背後を取られたことは未だ嘗て一度も無い。
そのピーちゃんを一撃で倒してしまうのだから、間違いなくこいつの剣の腕は超一流だ。
断言できる。
超一流だ。
「なぁお前、名前はなんて言うんだ?」
「レイ、レイ・ミストレード……やばい、クソ眠い」
目の前の青年はそう言うと気を失った。
「俺はベリオール・フランマだ。って言っても聞こえてねえな。ったく、せめて名前を聞いてから倒れろってんだよ」
思い返せばこいつは
「まぁ別にいいけどな」
俺は空を飛んでいた使役獣を呼び戻すと結界を張らせ、背負っていた背嚢から回復役を取り出す。細い薬瓶に入ったそれを、レイとかいうふざけた青年に向かって振りかけた。
しばらくすれば怪我もそれなりに回復して目を覚ますだろう。
目の前の青年をそのままに、後ろにそびえ立つ巨体に向き直る。
早速やるかぁ。
*
目を覚ますと目の前に有ったはずの
近くにはおっさんと、綺麗な青い鳥が居た。青い鳥はおっさんよりデカい。
「おいおっさん、
「おっさんじゃねえ、ベリオールだ。てか起きて一言目がそれかよ」
おっさん、もといベリオールは苦笑しながらそう言うと、青い鳥の背中を指さす。
「この中だ」
「…………は?」
「
「大きさを無視してなんでも入れられるっていうアレか? けどアレは重さは変らないんじゃないのか?」
「ああそうだ。ただこの鳥は不死鳥だからな、
「ほぉ~、ピーちゃん以外にも居たんだ」
「そりゃ当たり前だろ。俺は獣使いなんだぞ?」
「まぁそうか」
「本当は他の使役獣も使ってもっと安全に
「あっはっは、まぁ倒せたんだからいいじゃんよ」
「まぁいいわ。それより体調はどうだ?」
「あ、そういえばそうだ。体が全然痛くない。
「俺がたっかい回復薬使ったからな。回復してくれてなきゃ困る。もう大丈夫ならサッサと行くぞ。ほれ立て」
「い、いくってどこに? 町に帰るのか?」
「そんな訳ねえだろう。賞金首を狩ったんだからこれの報酬を受け取りに行くんだよ」
「どこに?」
「ロイズの酒場だよ。世界中から情報と
ベリオールはそう言いながら不死鳥の背中の
「何してる? お前も早く掴まれ」
「あ、あぁ」
俺が不死鳥の左足に捕まると、ベリオールは短く口笛を吹いた。
次の瞬間、不死鳥が大きく羽ばたき、そして飛んだ。
眼下の山が小さくなっていく。
冷たい風が顔に吹き付け、耳元で轟々と唸りを上げる。
「酒場はデカい町ならどこにでもある! こっからなら30分もすればつく!」
「わかった!!」
風に負けないようデカい声で短い会話を交わしたあとで、俺たちはそのまましばらく飛び続けた。
――――――――――――――――――――
第1章 完
攻撃力皆無の霧の魔術しか使えない剣士、霧の魔術で分身やら姿眩ましやらしていたら最強の剣豪と呼ばれるように ウォーカー @Inoshishi1114
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