第4話 劉延との対談(一)
「ヤンプー区。」李静は王真の履歴書を読み上げた。「上海じゃないか?」
「田舎エリアとは言え、それは間違えなく、崇明の一部だ。こんなの、常識だろう?」王真は言った。
「崇明大学か……上海の崇明大学?笑わせるな。上海人はさっさと上海に戻せ、蘇州河底に沈め。魚の餌食となれば、社会にもほんのわずかの役に立つかも。」李静は王真を追い出した。
悲しんだり怒ったり、王真は崇明文芸社を出た。「サチコ、帰ろう。家に。」
「はい、承知致しました。でも、明日また予定がありますので、寮に帰ったほうがより良いじゃないかな。」AIアシスタントのきれいな声が響いた。
王真はヘリコプターに乗って、ますます小さくなって、舷窓の外の崇明文芸社のビルをずっと見ていた。チョウシン区と長江を飛んで、ヤンプー区に戻った。
周りに点在した低い屋敷の中に、一塊の高いビル群は、崇明大学ヤンプー分校のキャンパスだ。三年前、崇明高等研究所も引っ越してきた。
キャンパスから更に南へ、前世紀のレイアウトが見える、まるで生き生きとしている歴史記録。これが、上海。
社会の最下層はここで働き、百五十平方メートルにも満たない、鳥籠のようにボロボロの部屋に住んで、前世紀の生活を送っている。彼らの効用関数は、半年ごとにアップデートし、マイナスが出た場合、蘇州河に沈むほかない。
彼らは何の痕跡もない他界して、こっちの世界に名前を残すことさえ許されず。まるで、全然来たことがないように。
王真の家は、蘇州河の北岸の点在した建物のひとつだ。
ルーフの駐機場は誰も掃除していないし、外壁のペンキも少し剥がれていく。王真はスマートイヤホンとスマート時計を外し、ヘリコプターを離れる。厚い灰を踏んで、部屋に入る。
「私を連れてください。」ヘリコプター内から、AIアシスタントの声はだんだん消えていく。
「結構です。一人にさせて。」
………………
…………
……
翌日。
劉延の寮に。
「王さん、上海に行った?」と劉延。
「ヤンプーだけ、蘇州河が見えたけど。」と王真。「まあ、劉さんは悪意がない、そのくらいは十分わかるけど……多分、李静も同じだ。」
「李静、誰?」
「崇明文芸社の人事課長よ。一昨日、面接でそちに行った。」王真は立ち上げる、台所を見てみる。「おい、おまえの寮だろ?コーヒーメーカー、いったいどこ?まさか、普段、コーヒー飲まないの?そんな明らかなウソ、通じないわよ。」
「ビンゴ、そのまさかだ。」
「いや、マジ?」
「マジのマジよ。」劉延はソファーに座っている。「みずくらいあるけど。渇いたら、ご自分が飲めばどうだ。」
「劉さんも前世紀の人ですね。」王真は台所に水を飲んで、リビングに戻る。「一昨日の夜、私は家に帰っただろ?窓から蘇州河を見ていた時、コーヒーとかお酒とか、一杯くらいあればいいな…と思ったけど、水以外は何もない。俺はさ、窓辺に寄りかかって、ただ水を飲み続けて…馬鹿馬鹿しい。」
「いいじゃない。健康こそが第一だ。高尚な生活は口腹の欲に屈すべきではない。」劉延はこう言う。「そう言えば、あの人事課長はどうしたの?」
「私に、上海人、と言った。まあ、今から思い返せば、そんな大したことはないけど。」王真はすっかり怒りが消えて、まるで他人のことを機械的に伝えるように、自分の経歴を語る。「いずれにせよ、出身地はヤンプー区、本世紀まで上海の一部だし、崇明府心エリアではない。俺自身は、半分が上海人、かな。劉さんのように、完全な崇明人ではない。」
「いや、わたし、出身地はチョウシン区……ね?崇明府心エリアとは別々だ。」劉延の言葉遣いは相当曖昧だ。「そもそも、崇明人の定義も曖昧だ。完璧な崇明人、この世界にいないだろう?大統領さえ、府心エリア出身ではない。一旦出世せば、出身地なんかどうでもいいけど……きみ、家に帰った?どうだ?何年ぶりので、懐かしい感じあるの?」
「とても気持ち悪い。」王真はコップをテーブルの上に置いた。「もう十年ぶりだ。部屋も十分古いので、AIアシスタントさえ配備されていないし、どちもほこりだらけだ。私はただ、夜の蘇州河を見ていた。多分、半時間?そして、研究所の寮に戻った。」
「新築のと取り換える、どうだ?」
「いや、俺もびっくりだよ。きっと、全ての新しいものを楽に受け入れると思ったけど、意外と伝統的だね。
「前世紀の一部の頑迷な作家は、家という概念の重要性を強調し、家を重要なイメージとして小説に書いた。これらの人たちは、とっくに蘇州河底に沈んで、魚の餌食なっていたが。彼らの誤った考えは時間を越えて、知らず知らずのうちに、今も私に悪い影響を与えているかも。やれやれ、マジ怖い。」
上海 in 2233 @nichitatsu
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