「付き合うとき」と「結婚するとき」の相手の選び方の違いについて真剣に話し合う男女二人です

本町かまくら

本編


 ふわりと風が吹き、白いカーテンが大きく膨らむ。

 野球部の掛け声や吹奏楽部の繰り返される演奏が、遠くから微かに聞こえてきた。


 広々とした教室に、男女が二人。

 日誌をせっせと書く男子と、それを退屈そうに眺める女子の二人の間には、実に爽やかな沈黙が漂っていた。


 カリカリ、と男子がシャーペンを走らせ、途中でその手を止める。


「いやあのさ」


「うん」


「俺、ここ最近気になってるんだけど」


「うん」


「結構真剣に悩んでるって言うか、ふとした瞬間、気づけばそのこと考えてるというか、まぁ平たく言えば考えずにはいられないことがあるんだけど」


「うん」



「付き合うための相手の選び方と、結婚するための相手の選び方って、結構違くない?」



「いやなに?」


 首を傾げる島野に、岡田はシャーペンを置いて続ける。


「ほら、最近よく聞くじゃん。『私彼氏と結婚するんだー』とか」


「まぁ聞くね」


「……それ違くね?」


「……ほう?」


 島野は困惑しながらも、真剣に語る岡田に耳を傾ける。


「いやだってさ、彼氏ってことはつまり恋人じゃん。付き合ってんじゃん。それ結婚とは別じゃん」


「じゃんじゃんうるさいな」


「ミ〇サ、エ〇ンを殺そう……!」


「それジャン・キルシ〇タインじゃん」



 ――閑話休題。



「一般的なイメージで言えば、交際の延長線上に結婚があると思われてるじゃん? 特に中高生だと」


「実際そうじゃないの? 今結婚してる人だって、一度付き合う場合が多いんだし」


「観点にセンスねぇなー」


「センスうざ」


「そこで、俺の疑問に戻ってくるわけ。付き合うときはこう、本能的にその人に想い焦がれるっていうか、好きだって思うから付き合うわけじゃん? つまり恋愛感情をただ一つの軸にして付き合うわけだ」


「何付き合ったことない人が言ってんの?」


「…………」


「なんなら初恋もまだでしょ」


「…………」


「…………」


「…………でだ」


「時間が解決するのを待つタイプね」


 んんっ、と岡田が咳ばらいをする。


「それに対して、結婚相手を選ぶっていうのは、恋愛感情だけじゃないだろ? むしろその他の要素の方が大事だ」


「へぇ、例えば?」


「例えば、その人とこの先の人生ずっと一緒にいるわけだから、価値観が合うとか一緒にいて楽、とか複数人で旅行に行って自分で何も決めない他力本願すぎる脳無し人間じゃない、とか」


「急に具体的すぎるでしょ」


「何するかの会議が停滞してる状況で『オレなんでもいいから』っていう奴マジなんなん? なんでも受け入れる俺ですわ、みたいなスタンスクソだせぇから。消えろ」


「絶対途中からそれ思い出して愚痴ってるだけじゃん」


「お前らのことだからな!」


「不特定多数に向けるな」



 ――とりあえず落ち着きましょう。



「ともかく、とにかく結婚相手を選ぶときは一時の熱より、安定性重視なんだよ。一晩で治る高熱より一週間続く微熱だ」


「例えが最悪」


「そのほかにも、ほら、色々あるだろ。子作りするんだったら、体の相性だって大事だしな。恋なら多少相性悪くても恋愛感情の後押しでオーガズムに達するが、それも一時のもの。常に気持ちがいいがよいに決まってる」


「童貞が何言ってんの?」


「…………」


「なんならファーストキスもまだでしょ」


「…………」


「…………」


「…………でだ」


「デジャヴ」



 ――繰り返される日常を大切にしよう。



「とにかく、ともかく俺が言いたいのは、交際と結婚は別だってこと。選び方の基準がまるで違うんだよ」


「……はぁ、分かったよもう」


「いや分かってない。だって俺はわき道にそれながらも抽象的なことを何度も繰り返し言ってるにすぎないからな」


「自分が通った道めちゃめちゃ客観視できてるこわ」


「ここでまとめだ」


「ほう?」


「交際する場合、一時の熱である恋愛感情に重きを置くが、結婚する場合、長い目で自分と合うことに重きを置く。ほら、まるっきり違うだろ」


「まぁ、そう言われれば確かにね」


「だから一時の熱に当てられた奴らが付き合って一か月くらいで『この人と合う! 結婚する!』とほざくのは浅はかだと言うことだ」


「論破しようとするな。それはそれでいいでしょ、青春って感じでさ」


「……ほう? 島野はそういうのがいいのか?」


「私は……別に、あんま考えたことないけど」


「じゃあ、今の俺の力説が第一言語的な位置取りか」


「何言ってんの?」



 ――話は戻って。



「だから付き合いたいなら付き合うことを目的に、結婚したいなら結婚する事を目的に、それぞれ適切な基準で相手を選ばなきゃいけないんだよ」


「そんなきっぱりしたものなの?」


「俺はそう考えてるよ」


「ふーん、そ。まぁ岡田らしいけどね」


 島野は相変わらず生気のない目で、窓の外を眺める。

 

「ところでなんだけど」


「ん?」


「実はもう一つ悩んでることがあるんだ」


「何よ」


「それがさ、俺たちって割と一緒にいること多いじゃん?」


「ん? ……ま、まぁ」


「結構落ち着いていられるっていうか、自然体でいられるじゃん?」


「……うん?」


「それに少食なのも倹約家なのも、インドアなのも同じじゃん?」


「……あえ?」


「だけど俺、38度くらいの恋愛感情抱いてるんだよ」


「…………」


「体の相性はのちに試すとして」


「いやさっきからキモいな」


 岡田は何でもないような表情で、島野に疑問を投げかけた。



「島野に告白すればいいのか、プロポーズすればいいのか、どっちだと思う?」



「もう訳わからないんだけど」


「分かる、悩ましいよな」


「岡田の二択に迷ってるんじゃなくて、岡田の二択自体が分からないんだよ。ってかなに、これそういう告白?」


「告白かプロポーズだな」


「総じてとんでもない告白」


「ややこし」


「こっちのセリフだわ」



 ――お話は終盤へ。



「で、どうすればいいと思う? 俺はどっちでもいいんだけど」


「さっきボロクソ言ってた他力本願してるじゃん」


「他力本願寺です」


「しょうもな」


「頼む島野。大事なことなんだ」


「…………」


 島野は顎に手を当て、天を仰ぐ。

 数秒の沈黙ののち、島野は告げた。



「……付き合ってから決めない?」



「…………確かにな」


「論破はや」


「交際と結婚は単純にすみ分けられるものじゃないか」


「物分かりはや」


「恋愛感情を皮切りに、付き合っていく中で相手を見極めるのがいいな」


「別解はや」



 ――ラストシーンです。



「じゃあとりあえず、付き合うってことで」


「よろしく。私これでも初めての彼氏だから」


「へぇ? やば興奮してきた」


「別れよう」


「破局はや。冗談だからさ、許してよ」


「……帰りにドーナツ奢ってよね」


「オール〇ファッションだけな」


「口ぱさぱさになるわ」


「でさ」


「なに?」



「好きだ」




「……それを最初に言え、ばか」





                  ――完





――――あとがき――――


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「付き合うとき」と「結婚するとき」の相手の選び方の違いについて真剣に話し合う男女二人です 本町かまくら @mutukiiiti14

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