第3話 羽黒山
不戦敗でいいだと?
昨晩、自らしたためた山登りの日記を見返して己の不甲斐なさに落胆した。
今日の目覚めはそんな感じだった。
息子は今日3回戦に臨む。
そんな中、息子の試合開始までの隙間時間ならぬ待機時間に私はぬくぬくとした車の中でネットサーフィンをしていて良いのか?
否!!
私も戦うべきだ。
そう決意し布団から飛び起きた。
まず近くの山を調べた。
すると今日の試合会場から10分程度のところにまさしく本日登るにはちょうど良い山があるではないか。
羽黒山と向羽黒山だ。
予定通り息子たちを宿泊所まで迎えに行き、試合会場で降ろしたのちに、私は山へ向かった。
試合開始までの時間は1時間半程度だ。
要するに私に与えられた山登りの時間は試合会場から羽黒山の往復時間を除くと1時間弱だ。
2つの山のピークを踏めるかどうかは微妙なところだ。
そのようなことを考えながら、資料館の駐車場に車を止めてまずは羽黒山のピークを目指した。
勾配は緩やかだ。
しかし、雪解け水のせいで足元がぬかるみ滑るので気は抜けない。
程なくして、羽黒山のピークに到達した。
その後は傾斜が急な階段を降りて向羽黒山を目指した。
しばらくは車道を歩く。
周りを見渡すと至る所に熊出没注意の看板がある。
このような里山でも熊が出るとは…。
さすが会津だ。
その後、山道との分岐点に辿り着いた。
地図を確認すると山道の方が5分ほど短縮できるため、時間に余裕がない私は迷わず山道を選択した。
この山道は比較的急な階段だ。
その階段も半ばに到達する頃はすでに汗だくだった。
この後は息子の試合観戦が控えている。
真冬の会津で1人だけ汗だくの父兄が応援席にいたら周りからドン引きされるため、上着を脱いでタンクトップで歩いた。
尚、真冬の会津でタンクトップ1枚で山登りをしているのもドン引きされるため、人が周りにいないことを確認した上で、ということを付け加えておく。
階段を登り切ると、向羽黒山の取り付きに着いた。
しかし、時計を見るとここでタイムアップだ。
頂上までは10分程度だが、息子の試合に間に合わない。
私は息子の試合を観に会津に来たのだ。
登山のためではない。
登山で息子の試合開始時刻に間に合わなかったことが万が一でも妻の耳に入ったら…。
そう思うと熊出没注意の看板に描かれた熊が妻の顔に見えて来た…。
私の足は自然と帰り道の方を向いた。
下山時はアップダウンの無い車道を歩き駐車場まで戻った。
その後、着替えを済ませて試合会場に向かった。
私の3回戦はタイムアップにより、おあずけとなってしまったが、挑んだことに後悔はない。
息子はこれから3回戦だ。
しかもユニフォームは私の本日の登山スタイルと同じタンクトップだ。
相手は強敵だが、何事も挑むことが大切だ。
左手は添えるだけ!
頑張れ!
隙間時間の活用方法 〜会津の山々〜 早里 懐 @hayasato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
綿毛の行方 〜日向山〜/早里 懐
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます