第5話
「どかん!」
エイリアンの口内に、おしぼりが弾丸のように命中する。それは一つに留まらず、立て続けに発射された。
姫ちゃんは右腕を真っ直ぐ突き出し構えていた。ピンクのパーカーの袖口から、それは射出されていた。
姫ちゃんの腕には、
「布って噛み切りにくいんだよね。しっかり巻いてるおしぼりなんて、ホント食べにくいよねえ」
経験者のような口ぶりで姫ちゃんは微笑を浮かべる。おしぼりショットは止まらない。
水を含んで質量を増した布の塊は、速度を付加させることでエイリアンを無力化させるのに十分な武器となっていた。
危険生物の全身を白い弾丸が穿つ。
穴だらけになって、大量のおしぼりで口を塞がれたエイリアンは苦しそうにのた打ち回った。無秩序に動き回る尻尾が船内を傷つける。操縦桿、機器類、床、天井。
そのうちに、鋭い尾がとうとう窓を突き破った。室内の物が勢いよく吸い出されていく。
まずい。
操縦士がいないだけならまだどうにかして地球への帰還を果たせたかもしれないのに、これじゃ宇宙船が保たない。
「おいおい冗談じゃねえぞ……」
青褪めた植木を横目に、姫ちゃんは尚もおしぼりショットをエイリアンに浴びせ掛ける。
攻撃モードを切り替えると、飛び出したおしぼり達はひとりでに開いてエイリアンに貼り付いた。
あっという間に何十枚ものおしぼりに包まれたエイリアンは、大きな繭の塊のようだ。
しばらく跳ねるように動いていたおしぼり繭は次第にその動きを弱めて、遂には完全に沈黙した。
エイリアンの脅威を退けたのは良かったけど、ピンチな状況は続いてて、酸素がどんどん逃げていく。
姫ちゃんが攻撃を一手に引き受けてくれている間に、私は植木を助け起こして二人で緊急用の宇宙服を引っ張り出した。
「二人共ナイス!」
「気休めにしかならねえけどな。こんな状態じゃすぐ船がバラバラになっちまうし、そしたら俺達は大気圏で燃え尽きるだろうよ。乗務員が遭難信号とか出してくれてることを祈るしかねえ」
植木はボヤきながらも手際良く宇宙服を着込み、ヘルメットを被る。
「ふふ。大丈夫だよ。ね、マキナちゃん!」
同じく宇宙服を身に着けた姫ちゃんが、ぴょんと私に抱き着いた。
「ああ? つか、お前さんも早く
植木がヘルメット越しに訝しげな声をあげた。私はゆっくり首を降る。
「私は良いの」
二人の準備が整ったのを確認して、私は自分の役割を果たすために大きく息を吸い込んだ。
「メタモルフォーゼ」
先ずは頭。
それから背中。迸るエネルギーは身体に添って足先まで降りていく。
解放される力に対してこの肉体は余りにも小さすぎて、熱量を逃がすように輪郭は拡散していく。再構築は迅速に行われる。
見なくても、全身が変容していくのがわかる。
尖っていく頭部、流線紡錘型に象られていくボディ、両足は溶け合って尾鰭に。
私は姫ちゃんと植木に向かって両手――いや、両の胸鰭を差し出した。
「二人共、私の背中に乗って」
姫ちゃんは大きくサムズアップして、植木の手を引く。呆然とした表情の彼がヨロヨロと連れられてくる。びっくりさせちゃったね。
巨大化していく私には船内は狭すぎて、崩壊を早めることになってしまった。四散していく宇宙船の残骸を、私の背に跨った姫ちゃんが歓声を上げて見送る。
私は宇宙を泳ぐ一匹の魚になった。
「でもこれ大気圏突入したら俺等死ぬじゃん」
植木が私の背鰭に捕まりながら声を張り上げる。
「大丈夫だよー」
姫ちゃんがくすくすと笑っている。
そう、大丈夫。
だって私は、
〈了〉
エイリアンVSサイコバニー 惟風 @ifuw
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます