第8話
自立旺盛な犬でしたが、排泄だけはそうもいきません。
座ったままオムツの中でうんこをすると、おしりが確実に汚れます。なので、オムツを変える時は、オムツのベルトを掴んで腰を起こし、左手で腰を支え、右手でおしりを拭いたあと新しいオムツを履かせないといけません。
ところが排泄に手を出すことを、フランスは許しませんでした。時には噛まれたこともあります。
噛まれてもケガしないように厚手のゴム手袋を買いましたが、そうするとオムツを脱がせたり履かせるのがとても困難でした。なので、素手でやるしかありません。
度々流血しながら、「痛い! 酷い! なんてことするの!」と怒鳴る日がありました。その時、はたと気づきました。
――声を掛けないで肛門を触られるのって、人間の介助では尊厳を傷つける行為ではないだろうか。
自分は黙ってフランスのオムツを外そうとしてました。それは、噛まれるのが怖くて、フランスを信用していないからだと、気づきました。
私は何度も声を掛けました。
「ごめんね、でも君のためなんだよ」「嫌だと思うけど、やらさせてね」「怖いことは何もしないからね」
そうしていくうちに、フランスはうなりながらも、最後までさせてくれるようになりました。
そして、きっとその現場を見ていない人には、中々想像がつかないでしょう。
フランスはやがて、オムツに排泄する前に、しっぽをピン! と立てて、私に知らせるようになりました。
それを受けた私がオムツのベルトを掴んでトイレへ連れていくと、そこでうんこをするのです。
けれど、私以外には決してオムツの取り替えをさせませんでした。母が何度かやってみましたが、激しく吠えられ、キバを剥かれたそうです。
「ロンズ以外には触らせないって言うのよ。だから、ロンズが帰ってくるまで、うんこしないのよね」
その時、私はどれだけ嬉しかったことでしょう。
信頼を信頼で返してくれる。コミュニケーションが成り立っている。
そんな報酬が貰えるなんて、フランスを飼う前は想像もしていませんでした。
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