第6話
痛みは表現することが難しい。
それは、私がよくわかっていたことなのに、どうして考えもしなかったのでしょう。
「うちの犬に、痛み止めを処方してください」
私がそう言うと、先生はキョトンとしていました。
「フラフラと歩いているのは寒さのせいでしょう」と言っていたのですが、私の必死な食い下がりに、「じゃあ弱い痛み止めあげますね」と、処方してくれました。
私は、薬を飲みたがらないフランスが飲んでくれるか不安でしたが、意外にもフランスは迷うことなく食べました。
そして夜七時、私はフランスと散歩に出かけました。
理由無く噛み始めてから、人気のない時間帯を選ぶようになっていたのですが、だんだんと散歩するのも難しくなった頃。私がリードをつけ、フランスがいやいやと付いてきた時です。
フランスは何かに驚いた様子を見せました。
そして、次の瞬間には、元気よく飛び跳ね、走り回ったのです。
「おかーさんおとーさん従姉妹ー!! フランス走ってるー! 超元気ー!!」
夜の住宅街で思わず叫んだ、夜七時のことでした。
「『レナードの朝』だったわね」
母は、その時のことをそう形容します。
その日から、フランスはとても機嫌よく過ごし始めました。噛んでしまっても、「痛みがあるのかな?」と思って薬をあげると、やはりしばらくは噛まなくなります。そうしていくと、噛む回数は極端に減っていきました。
やっぱり痛みなんだ、と理解しました。ところが、先生は「レントゲン撮りましたけど、椎間板ヘルニアではなさそうですよ?」と言います。
――軟骨はレントゲンには映らない。よって、周囲の骨の位置がずれているかで調べる。
インターネットでその情報を見つけた頃には、時すでに遅し。
フランスの腰が悪くなり、前足しか動かなくなるのは、二〇二三年三月のこと。
従姉妹が結婚し、家を出てから一週間ぐらいのことでした。
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