第4話
あれは十一歳の秋のこと。
せまいリビングを、軽やかに飛び回って走っていたフランスが、よたよた、フラフラと歩くようになりました。
おかしいな、と思っていましたが、その後新型コロナが我が家で猛威を振るい、母と当時同居していた従姉妹がダウンしてしまい、感染の恐怖と重圧に、家庭内はピリピリしていました。
フランスはずっと吠えていました。もしかしたら、自分の体調不良を訴えていたのかもしれません。
「うるさい! 静かにして!」
しかし私は、自分の安定を選んで、フランスのいるハウスの上にタオルケットを掛け、あえてフランスを見ないことにしました。
後悔はできません。
あの時、フランスの異常を察知できたとしても、二週間も家から一歩も出られない以上、動物病院へ連れていくことはできませんでした。
だから後悔するとするなら、その前のことです。
私は常に、自分を優先していました。自分が散歩するために犬を飼ったのに、お腹が痛いと言って、フランスの散歩をサボったり。フランスが「撫でて」と言っても、ずっとスマホを触っていたり。構ってと鳴くフランスを無視したり、ハウスに無理やり入れたり。
フランスを絶対に看取るのだと決めていた私は、その前に積み重ねなくてはいけない日常をサボっていました。
犬は、飼い主を無条件に信頼します。それは、犬には逃げ場がないからです。
子どもも同じです。子どもの私には、教室から逃げるという発想がありませんでした。だから、担任がおかしいと身体が訴えていても、生き残るためには信頼するしかありませんでした。
こんな風に身体が壊れて、今も生活に支障が出るなら、信頼なんてしなきゃよかった。
トラウマに苦しむ思春期の私が抱いたように、フランスもそう思ったかもしれません。
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