第3話

 うちに来た犬は、とても臆病な子でした。


 犬、というのもややこしいので、ここでは「フランス」と名乗ることにします。本名の由来がフランス語だからです。

 フランスは、うちに来た途端、部屋の隅で震えてる子でした。

 子犬の頃のパピヨンは家に来た途端、ネズミのように飛んだり跳ねたり走ったりしていたそうなので、これは性格なのでしょう。


 しばらく人間を警戒していたフランスは、まったくご飯を食べませんでした。その上、夜は二時間にいっぺん泣いていて、ほとんど母が付きっきりでした。

 しばらくすると、地べたに座る私の膝には、まだ小さいフランスが、よじよじと登って、その上でヒュンヒュン鳴いていました。


 そして当初の目的である散歩も、中々しない子でした。三歩歩いたら散歩は終了。しばらくしたら散歩にも慣れて、散歩が大好きな子になりましたが、それまでは家を出てすぐある曲がり角で引き返していました。

 あそこにはATフィールドでもあったんでしょうか。たまに見えない壁に阻まれて、身動きが取れない場所も多かったです。




 フランスは、「撫でる」ことを強要し、膝に乗って「抱っこ」することを要求する子でした。

 ボール遊びなど目もくれず、とにかく「撫でて」と言って、私たちの目の前でドタッとお腹を見せて転がったり、二本足で立ち上がって人の足にしがみついたりする。私たちが座っていると、椅子だろうが見事なジャンプを繰り広げて膝の上に乗る。

 パピヨンは優しい子でしたが、抱っこされることと撫でられることは、それほど好きな子ではありませんでした。かなりクールな子だったのを覚えています。


 臆病で、撫でられるのが好きで、抱っこされるのが好き。

 フランスを形成する特徴が失われるなんて、この時は考えもしませんでした。

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