第2話
「犬、飼おうか」
こたつで二人ぬくぬくしていた時、母がポツリと言いました。
子どもの頃、担任の不適切指導によって、見事心身がぶっ壊れました。
物理的な暴力は振るわれていませんでしたが、担任は、睨みつけることと怒鳴ることで暗黙の了解――という名の担任のご機嫌――を察知させ、自分が言わなくても言うことを聞く生徒を作ろうとしていました。
恐らく人によっては、「そんなことで?」と言うかもしれませんが、クラスの子の半分が不登校になっていた、と言ったら、少しは子どもの悲鳴が伝わるでしょうか。痛みというものは、中々伝えることが難しいですね。
何にせよ、原因不明(という名のストレス性胃炎)の腹痛その他もろもろの体調不良を抱えて、私は引きこもり生活を送っていました。
そこで母が提案したのが、「犬を飼って、散歩をすること」だったのです。犬の散歩は定期的にしなければならないので、体力作りにもなるし、近所の人と触れ合えると母は考えたのでした。
私は、すぐに飛びつきました。
というのも、私にとっての犬は、叔母から預かっていたパピヨンのことでした。
パピヨンは、私が生まれた時からおじいちゃんでした。
パピヨンも叔母も、母方の実家で暮らしていたのですが、祖父の死をきっかけに実家を取り壊すことになり、祖母と一緒に我が家へやって来たのです。その時叔母は再婚し、娘(私の従姉妹)と別の場所で暮らしていました。
パピヨンは、とても優しい犬でした。二歳だった私が毛をむしっても、うなりも悲鳴もあげずに付き合ってくれたそうです。またイタズラ好きで、たまにハウスのカギを自力で開けて脱走しては、歩いた後にはオムツのしっぽの穴からポロポロうんこが落ちていました。
ところが、ある日突然、本当に前触れもなく、叔母がやって来て、パピヨンを引き取っていったのでした。あの時のショックは忘れられません。
パピヨンが死んだのは、それからすぐのことでした。私は、私の犬では無いということで、パピヨンを看取ることが出来ませんでした。
私は、私の犬を飼うことが出来るのだとわかった時、私は絶対にその子を看取るのだと決めていました。
私の犬は、デカくて安いトイプードルでした。
ブリーダーが連れてきた犬は、二匹いました。一匹は小さくて目がパッチリ。もう一匹は、デーンと手足を伸ばしてグースカ寝ているデカイ赤ちゃん。
「小さい方が、高く売れるんですよねー」
そう言って、どんどんお値段が安くなっていくデカイ犬。
私の頭の中に、「殺〇分」やらなんやら物騒な言葉が浮かび、デカくて安い犬の方を選ぶことになりました。
でも、本当はシンパシーを感じていたのです。
デカいと言うだけで、ニンゲンに勝手に命を値切られてしまうこの子と。
お腹を壊して学校に通えず、普通のことができず、生きること自体が迷惑で、無価値なんじゃないかと思っていた私と。
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