第3話 終着点

 目が覚めた。


 すぐに狭さがないことに気付いて隣を見たら、雫華の姿はもうない。

 テーブルのうえに置かれている紙を見ずともわかる。


「帰っちゃったんだ」


 今日も学校のある日だから、一回家に帰って支度をしなきゃいけないのは理解出来る。でもさ、この喪失感が物凄く寂しいんだ⋯⋯。


 顔を見て、おはようって言われたかった。

 昨日はありがとうって声を聞きたかった。


「…………」


 でもやっぱり、そのあとに待っている、智夜は最高の親友だよって言葉を聞かずに済んで良かったのかも。


「こんなこと考えてる時点で勝ち筋ないよね」


 心が虚しい。

 残された雫華の香りと温もりに身を埋め、掛け布団で身体を覆う。


 真っ暗な世界。

 たしかに雫華を感じられるのに手を伸ばしてもどこにもいない。声を上げても、誰の返事もない。


 あーあ、どうして雫華を好きになっちゃったんだろう。こんな辛い思いをして、苦しみに心をすり減らして、早く楽になる勇気もなくて。


「あっ」


 着信音だ!

 真っ暗な世界から飛び出してテーブルの上で震えるスマホを手に取る。


 画面には雫華の2文字。迷わず応答ボタンを押す。


「おーい! もう下にいるよ! 早く降りてきなー」


 元気の戻ったその声がもう私を必要としていないみたいで途端苦しくなってきた。


「……ごめん、今日はちょっと休む。頭痛くてさ」

「大丈夫? とりあえず、先生には私から伝えとくから大人しく寝てなよ」


 ぷつっと通話が切れる。多分、私に無理をさせないためだと思う。

 ううん、そう思わないともうやっていけない。


 言われた通り寝よう。


 また暗い世界に戻る。私にお似合いなこの世界に…………。


 そうして眠りにつこうとしたときだった。


「おーい、なにそんなとこに埋もれちゃってんのさ」


「えっ」


 急に光が差してきた。

 それに驚いて顔を上げた先には愛しの雫華が――


「な、なに!?」


 雫華が私のうえに跨ってる!


「なにじゃないよ、あんな寂しそうな声出してさ。絶対頭痛いの嘘だって丸わかりなんだから」


 その言葉に心をグッと掴まれたみたいに胸が苦しくなる。我慢しないと涙が出そう。


「そんな顔して……今日はいつもの恩返し」


 雫華の顔が、私の隣に!


 ぎゅっと抱き締められる温もりと雫華の香りと、落ち着かない心のせいで好きという感情以外もう何も考えられない。


 涙が頬を伝う。


 優しく雫華を抱き締め返した。


「好きだよ」

「うん、私も智夜のこと好きだよ。家族と同じくらい大切な親友だから」

「……うん、ありがとう」


 わかってた。でも、今はこれで満足だ。


 智夜のことが好き。


 その言葉を聞けただけで生きる糧になる。本当の想いを打ち明けるのはもうすこし先でもいい、よね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編百合「あなたの一番になりたいだけなのに」 木種 @Hs_willy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ