第2話 

 雫華は先に寝た。あの後、もう一回泣いたせいで目元が赤いままベッドに横になっている。


 長い睫毛、小さい耳、ぷっくりした唇。

 今ならもしキスしてもバレないかな……なんて妄想何回したっけ。それでもう何回も起きないでバレずに済んだっけ。


 ぷにっと柔らかい頬をすこし摘まんでも起きないんだから。


「ねぇ、たまには私の話も聞いて欲しいの」


 もちろん返事はなし。反応すらない。だから安心して話せる。


「私もね、恋してるんだよ。雫華と同じだけ失恋して同じだけまた恋を始めてる。違うのはその相手がずっと同じ人ってこと」


 そう、雫華のことだよ。


「叶うとか叶わないとか、そういうところまでこれているのかもわからないくらい真っ暗な道を進んでいるんだ。ずっとすぐ近くに気配はあるのに全然姿を見せてくれなくて、永遠に探し続けているの。もう四年もそんな状態が続いてるんだよ。

 わかる? それがどれくらい辛いかって。胸が痛いかって」


 別に雫華を責めたいわけじゃない。ただ、微塵も私の想いに触れてくれない苦しさをたまには吐かせて欲しい。

 ごめんね。


「いつになったら振り向いてくれるんだろうって、待つばかりじゃダメなことは分かっているけど、ジャブを打つのでさえ雫華との関係が壊れないかって心配なんだ」


 キスをする。

 そうして一人で満足感を得て馬鹿みたいだとは思う。でも、これをやめちゃったらいろいろと抑えられなくなりそうで我慢のためでもある。


「はい、これでお終い。隣失礼しちゃうよー」


 私のベッドではあるんだけどね。

 雫華の体温で温かい掛け布団を掛けておやすみなさい。


 また起きたら雫華は新しい恋に向かう。そして私もまた雫華に恋をする。

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