短編百合「あなたの一番になりたいだけなのに」

木種

第1話 失敗ばかりの道の先に成功はあるの?

「私ってさ、負け確ヒロインだから……だから、仕方ないんだよ。田宮くんに気持ちすら伝えられなくても」


 瞳を潤わせておいて強がりな言葉で誤魔化せるつもりなのかしら。

 分かってる。この後私の胸を雫華しずかが濡らすことも、それを頼りに私と一緒に彼の姿が見えるグラウンド近くまで来たことも。


「雫華はこんな可愛いのに、全然振り向かない男なんて気にし過ぎないほうがいいのよ。田宮も良い人だとは思うけど、もっと雫華に合う人がいるってことなんだから」


 たとえば、私とか。


「……うん」


 ほら、すこしこっちに寄ってきた。我慢の限界が近いくせに完全に頼るのを嫌がるプライドを持ってるところが可愛い。

 それなのに想い人に親密な幼なじみの女の子がいるからって一歩踏み出せない弱さを持ち合わせているところも可愛い。


 だからお望み通り近寄ってポンと頭に手を置いた。


「いいんじゃない? 今なら誰も見てないよ」


 コクリと頷いてそのまま私の胸に顔を埋めてくる。

 驚かせないようにゆっくりと後ろに手を回して抱き寄せる。


 私と雫華が過ごしてきた六年間で一番好きな瞬間。でも、このときを味わう度に痛感する。

 私もずっと負け続けているんだって。



 ◇◇◇◇◇



 雫華と初めてちゃんと話した日も目尻に涙を浮かべて学校の階段に座ってた。

 懐かしいなぁ……その廊下は殆ど生徒の通りが無くて目が合ったときに凄く気まずくなったのを今でも忘れない。


「雫華はさ、本当に恋多き女の子だよね」


 私の部屋に帰ってきて二人並んで座りながら話す。

 よく泊まりに来るから置いているふわふわの部屋着が雫華にはすこし大きくてぶかって余ってるのが可愛い。なにより白とピンクでお揃いのものを着ているのが、私を幸せで包んでくれる。


智夜ちよが興味なさすぎるだけで普通はこんなもんだよ」

「私は異常って言いたいのかしら?」


 ニッコリ笑顔で二の腕辺りを摘まんでやる。


「いたいいたい! そういうわけじゃないけど、珍しいのは間違ってないでしょ」


 珍しくも何でもないよ。誰にも話してないし、その想い人にも気付かれてないだけで私だって恋くらいしてるのに。


 運動が出来て優しく接してくれる男にいっつも視線をもっていかれるから、隣で寂しそうにしてる私に気付いてくれていないだけなのに。


「まあでも、その分私がこうして智夜を独り占めできるから嬉しいし、有難いんだけどね。私の話を最後まで聞いてくれる大事な親友だし」

「はぁ、そんなこと言ってるといつか私が嫌気差しちゃうかもだよ」

「それは困る……けど、そう言ってるうちは大丈夫だって私、智夜のことわかってるから。本当に無理ってなる前にちゃんと気付けるから」

「なにそれ」


 全然心の奥まで覗いてくれないのに自信満々って顔しちゃって。


 ……はぁ、私もなにやってんだろ。

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