第23話 獣の夢魔─ポヴェトリオン!

「殴る前に質問するぜ?」

 わたしを──

 アウを降ろす変態男。そして、

 彼は上空に、一瞬で飛び上がった。

 アウたちはそれを、ただ呆然と見上げている。


 アイツ、ただの変態男じゃなかったの?

 明らかに、人を超越した動き!

 こんなスゴいの、お母さん以外で初めて見た!


「お前をぶっ倒せば、モネアもこの町も王都の革命も全部解決──それで間違いないか?」

 間欠泉のだらけの山岳地帯。

 その上空、フェインが対峙するのはこの一件の黒幕──女性型の悪魔だ。


 真紅の髪。縦ロング付きのツインテール。深緑色の瞳。目は垂れており、優しげな印象を抱かせる。

 身に纏うのはモノトーン調の半袖と半ズボン。


 自由奔放さを感じる見た目だ。

 かといって、他者を意識していないワケじゃなく、『誰かを騙すために敢えて隙を作っている』みたいな印象。

 まるで食虫植物のような悪魔。

 アウにはそう感じられた。


 確かに、変態男は強いかもしれない、

 お母さんに匹敵するくらい。

 でも、


 相手は悪魔。

 しかも、この村の人たちに呪いをかけたヤバいヤツだ。

 ちょっと身体能力が人智を越えてるからって、そんな相手に勝てるのかな……?


「あはは、つまんない質問来た! そうだよ? ボクを倒せば全部解決。でも、考え直してよ〜」

 くすくす。

 おどけた様子で笑う悪魔。


「『他人のためにがんばる』なんて陳腐で退屈。キミももっと楽しもうよ、人間の感情の高まり──不信感や劣等感、そして憎悪を」

「それを聞いて安心したぜ」


 フェインは振りかぶった拳を、思いっ切り悪魔に叩き込んだ!

「お前を気兼ねなくブッ飛ばせるからな」

 瞬間──


 遠くの岩場まで吹っ飛ばされ、叩きつけられる悪魔。

 その衝撃は岩肌を削り飛ばす……!

 抉られた地面からは湯が噴き出、泉を作っていた。


「す、スゴい!」

 わたしは息を呑む。

「一体、どんだけ睡眠値レベルを稼げば、こんなことができるの……?」

「フェインさんはですね」


 アウの隣、にこやかに語るラナさん。

 その表情はどこか自慢げだ。


睡眠値レベル13,700,000,000なんですよ。わたしを魔王から救ってくれた、命の恩人でもあります!」

睡眠値レベル13700000000ッ……?」


 だから、強かったのか。

 しかも、既に魔王と戦ったことがある?


 もしかすると、これならあの悪魔にだって勝てるかもしれない!

 アウは変態男──小高い岩場に着地したフェインを見上げた。

 刹那──


「いい夢見れた?」


 フェインの背後には一体の悪魔。

 さっきブッ飛ばされたハズの、悪魔だった。

 フェインは振り向き、再び悪魔に拳を叩き込む。

 寸前──


 ピタリ。

 腕を止めるフェイン。

 

 彼の目の前、悪魔は大きな鎌を傍らの『何か』に向けている。

 灰色の毛並み。丸太ほどの太さの手足。

 頭にはとんがり帽子。

 それは、一匹の巨大な狼──


 獣と化したノクシアだった。

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睡眠チート-睡眠時間が全ての世界で13,700,000,000年寝た元社畜は強制睡眠スキルで魔王もヒロインも安眠堕ち 神田モッツァレラ🧀 @MozzarellaKanda

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