第22話 後悔の幼魔術師!

「アウローリア!」

 オレは彼女の腕を掴む。

 そして、しゃがみ込み、目線を彼女に合わせた。

「どういう意味だ? 『全部アウのせい』だってのは」


「えっと──」

 目を逸らし、何かを逡巡するロリ。

 コイツ、目を逸らすほどやましいことを抱えてんのか?

 だが、そうはさせない。


 オレは高速で彼女の周囲三百六十度を囲む。

「どうだ? これで目ェ逸らせないだろ?」


「マジで何やってんのよキモ男!」

 背後から来たモネアは、オレの背を剣で叩き斬る。

「それどっちのセリフッ? お前こそ何やってんだ!」

 ノーダメージだが、躊躇無く斬られるとやはり心が痛む。


「え〜ん」

 号泣するロリ。

「ほら、怖がっちゃってるじゃない!」

「半分はお前の責任だが?」


「あああ、争いは止めましょう!」

 オレたちの間に入り、静止をかけるラナ。

「とりあえず、アウローリアちゃんの話を聞くのが先決です!」


「マジ常識人ね。でも、貴女が仕切ってくれて助かるわ」

「流石は常識人。お前がいて良かったよ、ラナ。財布って呼んでごめんな」


「いえいえ、そんな……! 財布ラナ呼びでもいいですよ〜」

「常識どこ行ったのよ」


 ってあれ?

「アウローリアがどこ行ったよ?」

 見回すと、町外れの方角に走る彼女の背中が見えた。

 あの方角、立ち入り禁止区域の方か?

 瞬間、

 オレは全身に力を漲らせ、ロリの後を追いかけた。



 村の外れ、

 間欠泉の噴き出る立入禁止区域。

 辺りは熱気に包まれ、岩肌は茶色に緑に黄色──様々に変色していた。


  街もなかなか暑かったが、ここは中心街よりも更に暑いな。

 しかも間欠泉からは、不定期で高温の飛沫が打ち上げられる。

 立ち入り禁止になるワケだな。

 見るからに人間の来る場所じゃねェ。


「そろそろ聞かせてもらおうか、アウローリア。お前は何を知っている?」

「別に? ただ、夢を見ただけ」

「夢? そりゃ、見る時もあるよな、眠ったんだから──」


「違う!」

 ローブの裾を掴み、乱暴に首を横に振るロリ。

「アウが見たのは『悪夢』。その中でアウは……」

 それは、消え入りそうな声だった。


「アウが、『大人たちを獣に変えた』の」


「お前が、この事件を? しかもそれが夢の中の出来事で……?」

「……うん」

 幼女は所在なさげに呟く。


「夢の中で、またお母さんに色んなこと指図されたの。他の大人に相談しても、みんなお母さんの味方。それがツラかったの」


「あるよな〜」

 オレは頷きながら、ロリに寄り添う。

 すると、彼女は静かに微笑んだ。

「分かってくれるんだ、お兄ちゃん。それは、ちょっとうれしい」


「分かるぜ? 上司の上司にパワハラ相談しても、軽くあしらわあれるやつとかな」

「それは分かんない」

 無表情に戻るアウローリア。

 いや、めちゃくちゃ共感エピソードなんだがな。


「それで、大人イヤだなって思ってたら、誰かが囁いてきたの」

「なんて囁いたんだ?」


 すると、アウローリアはそこで黙り込んだ。

 何か躊躇っているのか?

 そんな面持ちだった。


「『大人がイヤなら、消しちゃえばいい。物言わぬ獣に変えちゃえばいい』って」


「つまり、こういうことかしら?」

 追いついたモネアは、行きを整えながら続ける。


「貴女は、悪夢を観た──大人を獣に変える悪夢を。そして翌朝、その悪夢が現実になっていた」

 こくり。

 ロリは無言で頷いた。


「ででで、でも、関係あるんですか? モネア様。夢の中の出来事が現実に干渉するなんて」

「聞いたことがあるわ、『魔王の軍勢には、悪夢を操る魔族がいる』と」


 『悪夢を操る魔族』。

 そして、『人間を獣に変える呪い』か。

 だとすれば十中八九、その魔族は、モネアとこの町──両方に関わってるかもな。


「つまり、そいつを倒せば全て解決ってワケだ!」

「か、解決って意味だと、アウローリアちゃんは解呪できないんですか? ノクシアさんに教えてもらってたり──」

 慎重な声色でロリに窺うラナ。


 コイツ、こういう気遣いの優しさ魅力だよな。

 七人姉弟なだけあって、面倒見も良いのかもしれない。


 すると、

「解呪? 無理に決まってる」

 ロリは首を横に振った。

「だって私は、今まで夜更かししてきた。お母さんに厳しくされてきたけど、睡眠値レベルだってそんな高くない。それに──」


 アウローリアはとんがり帽子を目深に被る。

「大人たちを獣にしたのはアウ。だから、『また何か、アウが変なことしちゃったら──』って考えたら、何もできないよ……」

 そう言って彼女はそっぽを向いた。


「確かに、そうだよな」

 オレは再びしゃがみ、帽子の陰──

 アウローリアの顔を見上げる。


「オレもこんな性格だからさ、何度も失敗してきた。だから分かってるつもりだぜ、失敗する度に体が重くなる感覚。『また失敗したらどうしよう』って一人で考え込んじゃうよな。けど──」

 相変わらず目を逸らすロリ。

 それでも、オレは彼女を真っ直ぐに見つめる。


「安心しろ。責任ならオレが取ってやる。お前は失敗なんて気にせず、挑戦すりゃいいんだよ。きっとそれが『上司のあるべき姿』だろうからな」

 瞬間──


 絞まる首。

 アウローリアがオレの首元に抱き付いたからだ。


「アウみたいな小さい子に、こんだけ構うなんて──本当に変態男なんだね、お兄ちゃん」

 悪態を吐くロリ。

 けれど、その声は少し震えていた。

 オレは黙って幼女を抱きしめ返す。


 きっと、コイツなら、もう大丈夫だ。

 あとはノクシアの呪いを解いてもらって──

 刹那──


「あ〜あ! 本当に現実って退屈!」

 地の底から響く声。

「誰だ……?」

 アウを抱え、臨戦体制を取る。

 瞬間──


 岩肌、

 アウローリアの影から伸びる真っ黒な棘。

 オレが飛び退くと、そこからは真っ黒な装束に身を包んだ女の悪魔が現れた。


「せっかくウチが幸せな夢見せてあげたのにな! 邪魔しようとするんだもんな! 落ち込む〜」

 演じるような声色で呟くと、

 悪魔はこちらに笑いかけた、妖しい表情で。


 コイツが全ての黒幕なのか?

 とにかく、オレたちはコイツをブッ飛ばして、モネアやノクシアたちの呪いを解くんだッ!

 アウローリアを抱えながら、オレは拳を握り締めた。

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