第11話 竜と人間

束の間の静寂。

自分が何を聞いたのか考えていた刹那の時間が過ぎ···

「ルームブロック(Room Block)!」

レシリスの魔法が発動した。

この子はちょうどルオンが自分の考えをしたようだと言った。

それなら、この子が龍族皇帝ということか。

外見から見ると肌と瞳の色がただならぬ人間のチビに過ぎないのに···

だが、前回派遣した調査団がよりによって龍の子孫と向き合った。

調査団の生徒たちの話を聞いてみると、その遊牧民たちが名前と彼らが乗る獣の他に特に龍と関連があるとは見えなかったが、彼らの視線で把握されていないある種の関係がないという保障もないのが事実。

それなら龍の子孫たちが龍族皇帝に会って調査団の話を伝え、その話を聞いた龍族皇帝が変身をしてここに訪ねてきたとすれば、ルオンが今自分の考えをしていることに気づいたことも話が理屈かなう.。

それに…彼はその小さな体躯から何か強い気配を放つのだった。 長い歳月を生きてきたルオンと多くの怪物を相手にしてきたレシリスだから気づくことができるのだが。

「私を殺しに来たんですか?」

「余?ジムがどうして君を殺さなければならないんだ?」

「そりゃ…調査団を送ったから…?」

こそこそ手を非常ベルでかざすルオン。

「それがなぜ殺さなければならないのか。 それよりも、その紙切れのような薄い魔法を早くおさめてくれないか。 余はもっと気楽な会話がしたいんだ。」

「…」

有名な犯罪者から刀を下ろすように言われたような二人。

だが、彼の言うことが本当だった。

今発動したルームブロック魔法は、破砕された空間で使う防御魔法。

事後報告のために来たのでアイギスソード(Aegis Sword)を含むいかなる武装もしないまま軽い服装で来た彼女が発動できる最善の防御だが、

火山龍王より強いという龍族皇帝を相手に通じるとは思わなかった。

いや、最初からすべての武装を備えていても、龍を相手にするほどのことはなさそうだけど。

「面倒だから。」

指一本を上げて防御魔法を破壊してしまった後、ソファに勝手に座る少年。

「あんなに簡単に······間違いなく本当の龍族皇帝だな」と思うルオンに、

「客が、一国の君主が来たのに何も出してくれないのか?」

招待したことないんですが···という言葉を飲み込む彼だった。


「それで、私を殺さないなら、なぜいらっしゃったのか…」

やっとのことで車を出してきたルオン。 そして依然として座れないレシリス。君が推測したように、余は龍族皇帝アウグストゥスだ

「お早うにその大名を承りました」

「うそをつくよ。 君が聞いた名前はアウグストゥスではなく、「龍族皇帝」という名前ではないか」

皇帝はお茶を一口飲んだ。

毒が入っているはずがないという態度で、いや、自分を殺せる毒なんてないと思うだろう。

「とにかく、余はドラゴンズネストの君主として、その地に文明を築くために多方面に努力しているんだ。」

「…龍族が…文明を?」

妙な表情を浮かべるルオン。

「まるで猿が剣を製作するという話を聞いたような表情だね。」

「失礼しました。 それで…」

「君もご存知のように、ドラゴンズネストに何十年も故郷に帰れていない人間の技術者、研究者たちがいる。」

知っている。未知の地ドラゴンズネストはいつも各種学者たちと冒険家たちの好奇心の対象になってきた。

そのため、政府の引き止めにも屈せず多様な手段で入って帰れなかった者たちの話が非常に多い。

「…それで…今…人質事件を起こすのですか?」

ルオンの目に、そしてレシリスの拳に静かに怒りがこもっていた。

「とんでもない。自分の足で我が地に来た者を送る理由がないだけで、彼らは皇帝の名の下に保護されている。 誰も死ななかった。」

「保護という名の抑圧は、それ以前から度々ありました。」

「証明できないのが悲しいね。 とにかく、この話を切り出したのは君たちの怒りを刺激するためではない。 余は彼らに魔法の研究を命じたかったのだ。」

「人類を破壊する研究をする彼らの立場が悲しいでしょうね。」

「彼らが悲しいのは自分の知識をまともに取り出せないからだね。 火山龍王というやつが彼らを捕まえたまま、何の研究もさせなかったので、頭が固まったそうだ。」

…きっと彼らは人類を害するような研究をしたくないので、あらゆる苦難を経験しながらも根気強く耐えたのだろう。

「だから君の学校で生徒たちを選抜して連れて行きたいんだが…」

「それはだめです! 幼い学生たちがそこに連れて行かれ、あらゆる苦難を経験することになるじゃないですか! 私が命を差し出すことがあっても、総長として彼らを守ります。」

たとえ自分が下手な考えで生徒たちを高原に送り、龍族皇帝と向き合うことになったが、生徒たちが危険に陥ることを知りながらも送ることはできなかった。

「別に苦難を経験することはないだろう。 人間同士が暮らせるように、土地1ヵ所を与えた。」

「…収容所を作るために?」

「失礼だな。何も監視せず、何の柵も立てなかった。 余が人間を監視する理由があるだろうか? ただ、その隣には龍の子孫である遊牧民が住んでいるので、隣人同士が仲良くしてくれることを願うだけだ。」

「彼らも連れて行ったんですか?」

レシリスは尋ねた。

「余お初めて会った人が彼らだから、そのままにしておけば、前日の君たちのように各国から調査団を派遣して彼らを困らせたり、安危を脅かす恐れもあるのではないか。 そして、彼らを戦闘力に使おうとする狙いもあるし」

…次第に、この者が思ったより理知的な存在なのか? 考え始めた。

そもそもこの者は引き続き対話を試みている。 自分たちの態度が明らかに目に見えるはずなのに、一度も怒らない彼の話法は、まさにルオンが考えた龍のイメージとは違った。

このようになれば、国家の安危とか、家族の身辺で人質劇が入ってきても、少なくともルオンやレシリスの命で脅迫が入ってきてもおかしくなかった。

「…失礼しました。ひとつ…陛下のお言葉をどうやって信頼できるのか…」

人類のすべての学者が知りたがっていたドラゴンズネスト。 その土地を生命の脅威を受けない安全な環境で探求できるなら、確かに考慮に値する。

その過程で、龍族の文明が人類を脅かすほど強大になれば、自分が人類を裏切った格好ではないか…···という気もしたが、それに先立って学者ルオンは新しい学問の探求というニンジンに誘惑されてしまった。 そのために学生たちの安危を保障することができれば···

「龍族皇帝の勅令書…同じことでは人間の信頼を買うのが難しいだろう。 竜人にとっては絶対的なことだが。 それに、余が何か保証したことを君の国の政府にバレたら困るだろう。 だから…」

「それでは私がついていきます。」

レシリスは言った。

「レシリス, 君が? そこには多数の龍がいる。 彼らから生徒たちを君が守ることができるだろうか」

「命と変えて…」

「君の口調に余の胸が熱くなるね。 別にそんな覚悟はいらないけど、じゃあ、月に一度、通信を許してやるよ。 どうか?」

「私は私の仕事でルオン様や王国を巻き込むつもりはないのですが…」

「いや、陛下のおっしゃるとおりにいたします。 私は生徒たちの保護者です。 私には生徒たちの安全を把握する義務があります。」

「その約束、必ず叶えてやる。」

アウグストゥスはにっこり笑って腕からビーズを取り出した。

「…これは何ですか?」

「龍が持っている玉、知っているではないか。 如意宝珠だ。 如意宝珠を巡っての誓いは必ずなされるようになっている。 持っているように。」


その時、再び総長室のドアが開かれた。

成人したばかりの女が1人、男が2人。

「レシリスお姉さん! いつ終わりますか?」

打ち上げが予約されているようだね。

「あ、皆さん、今は···」

「そのチビは誰ですか?」

「総長の甥っ子さんですか?」

レシリスは急いで唇に指を当てた。

「そういうことにしよう。 では、別にゆっくり来てください、レシリスお姉さん。」

「え…え?」

彼女らしくない当惑した表情が面白かった。

「一週間以内にお目にかかりたいですね。」

「…はい…」

楽しい打ち上げを邪魔するつもりはなかった。

竜人商団に知らせ、近いうちに彼らと接触するように命じるつもりだった。

アウグストゥスの考えでは,彼女はうそをつかない生真面目な人間だ。

この程度の約束でも大丈夫だと判断した。

そして「ちびっ子、さようなら!」という挨拶を後にして大学を出て静かなところに移動した後、翼を広げた。 その瞬間、認識阻害が発動し、何の騒ぎもなくドラゴンズネストに向かった。

「レシリスアルテミル···欲しいな…」

そのまっすぐな意志とバイザーに隠された顔が何度もちらついた。

.

.

.

ブラッディ·ティアラ海賊団は今、「とてつもなく大きな獲物」を発見したという知らせを聞いて、かなり多くの船を引いてきた。

彼らの船にはそれぞれ正面を覆う不可視化魔法「メッシヴ·インビジブル·シールド(Massive Invisible Shield)」が発動されている。

正面から見れば不自然に空間が歪んでいるように見えるだろう。

だが、この程度なら愚かな商船たちの目なんかごまかしても残る。

偵察隊が発見したのは「黒い鉄パイプを運んでいる巨大な貨物船」だった。

鉄パイプを船の中はもちろん、わき腹にもぶら下げている姿がおかしかったという。

魔力投射装置がないことから、軍艦である可能性はなかった。

「どこかの建設のための資材運送船と見られる」と偵察隊は報告した。

宝船じゃないのが残念だった。 鉄のパイプなんて盗んでも使いどころがない。 その上、規模が大きければ船員が多いはずなので、大変な戦いになることもできた。

しかし、それだけ多くの捕虜を確保することができるだろう。

さらに偵察隊の報告によると、その貨物船の船長が愚かな人なのか、欲張りな人なのか、有事の際に戦闘のために空けておくべき「2階の段にも鉄パイプが上がっていて」、彼ら自ら戦闘に不利な環境を作っていると。 そんな愚かな船長が率いる船なら、思ったより簡単かもしれない。

もともと強い戦闘員が怖いのではなく、愚かな指揮官が怖いのだ。

やがて…···遠くから黒い物体が見え始めたのだった···

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欲望と権力と竜と地獄と天上と宇宙 @akatsuki0505

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