第1話 本編

末造爺さんにボクは会いに来た。

波賀町上野の飯見いんびとの境目に劇場上野モーテルと呼ばれていた場所が今でもある。ちょっとした広場になっていて、ボクは自転車でここまで来た。

おや?どうやら先客がいたようだ。

晴れた日なのに、びしょ濡れの女性が立っている。

肌は白く、黒い髪は腰まである。前髪で片目を隠している。

白い着物を着ている。死装束にも見える。

ゆっくりだけど、こちらに歩いてくる。

「お、おあああ」と、女性は叫んでボクをおどかそうとしてくる。

「えーっと留(とめ)さん」と、ボクは聞いてみた。

「…」

「留さんだよね。あなたも末造爺さんに会いに来たんでしょ」

「す、え、ぞ」

「そそ。末造爺さん。あなたの幼なじみ」

「……」

首を縦に振ってくれた。

どうやら合っているみたいだ。というか、紙に名前を書いて呼んでおいたのが効いたのだろう。


「ボク、京介。よろしくね。末造爺さんはあっち。ほら、あそこに座っているでしょ。見える?見えるよね。そっちの住人だし。ね」

「す、え、ぞ」と、言いながら留さんは末造爺さんの方へ歩いて行く。

何だろう。すり足って言うのかな。スゥーーっと移動している。

まるで飛んでいるみたいだ。

ボクは自転車を押して後を追いかける。

茶色のチョッキを着た末造爺さん。顔はドクロだ。白骨化している。

あーちょっとあっち側に行ってしまったのかな。

「末造爺さん、おはよう。ほら、留さん連れて来たよ」

「と、め」

「す、え、ぞ」

「おお、お互いに名前を呼び合ってる。じゃあ、白き光よ。二人を繋げて」

七色の輝きから白へ。白い光は末造爺さんと、留さんを光の糸となって繋げた。

【どうして私を連れて行ってくれなかったのけ】

【次の日に病気で死ぬなんて思わなかったべさ。だから連れて行かなかった事、後悔したべさ。そんで連れて行きたかったここさ。ここで待っていた】

【自分で来ちまったべさ】

【京介に連れて来られたんだな。この子、見ての通り変わってるべ】

【んだ。おらたちを見て、驚きもしねぇ。今もこうやって話すの手伝ってくれてる。何だろうね、この子】

「まあ、いいじゃん。それで浄化…成仏できそ?」

【【んだ】】声が重なった。

末造爺さん、留さん…二人とも若い時の姿に戻って、劇場上野モーテルの入口まで歩いて、白い光の粒になって空へ高くたかく昇って消えた。

「さあ、帰るか。いい映画見て帰れよな」と、誰もいなくなった上野モーテルに手をふった。

ボク、京介は自転車を押して来た道を折り返した。

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末爺とボクとトメさん。 グイ・ネクスト @gui-next

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