第3話

 

 真っ暗闇の中に砂粒のような小さな光が徐々に広がっていく。やがて光は目が開けれないほど激しく輝いて、世界を映し出す。



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「んっ」


 目が覚めると知らない天井だった。それに眩しすぎるのであまり目を開けてられない。私はどれだけ寝ていたんだろう。

 そう思ってると何やら周りが騒がしく感じた。よく音が聞き取れない。

 学校では誰の言葉も理解出来なかったから、学校の保健室で寝てたのかと一瞬考えたが。


 『あれ?ぺんちゃんだ』


 上手く声が出せない。そして私の隣には抱き枕のペンちゃんが一緒に寝ていた。ここは家?じゃない、どこだろ。

 上手く体が動かなくて周りを見渡せないが、天井とか布団とか自分の部屋の物とは違うと分かった。


 する目の前に女性の顔が現れた

 眼鏡の女性は私の名前を何度も呼んでいて、徐々に私もこの女性が誰なのか思い出してきた。


「もしかして春奈ちゃん?」


 眼鏡を曇らせて泣きながら私の手を握ってる。姿は私の知ってる春奈よりも大人びて見えた。

 徐々に人が増えていき、お医者さんと看護師さんが来た辺りで「ここは病院か」と思い再び眠りに落ちた。



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 再び目が覚めるとベッドの横には両親がいた。


「よかった。桜が目ざめた!ほらお父さん見てほら」

興奮気味のママに落ち着いてるパパがそっと肩を抱いてあげていた。

「分かってる分かってる。少し落ち着いてくれ」


少し落ち着いたのかママが私に話しかけてくれた

「桜は声が出せる?」

私は枕の上で首を横に振る

「そうよね、でも徐々に声も出せるようになるし体も動かせるようになるってお医者さん言ってたからもうちょっとの辛抱だよ」

私は頷く

「桜がどこまで覚えてるか分からないけど、あなたは13年間眠ってたのよ」


ママの言葉に驚き目が開く

どういうこと?

鈍っていた脳みそが熱を帯びてきて、思考が徐々に回復してきた。

何となくだけど思い出してきた。

確か小学校の卒業式の日に事故にあって、そこから記憶が無いんだ。


『じゃあ今までのは全部夢?でもぺんちゃんがいる?』


 隣で寝ているペンギンを見て不思議に思った。

 そういえば私は今何歳なのだろう、13年間眠ってたと言ってたから25歳かな?いつの間にか大人になっちゃってた!?


 ぼーっとしてると両親は「またすぐ来るから」と言い別の人が病室に入ってきた。姿は大人になっているが間違いなく春奈と海斗だった。

 二人は小学校では親友でよく遊んでた。もうこんなに大人になってたんだ。


「よっ春奈目ぇ覚めたみてーじゃん」

大きな声が病室に響いた

「ちょっと声うるさい、桜ちゃんまだ本調子じゃないんだから」


私は笑顔で二人に微笑みかけて「大丈夫だよ」と口を動かした。伝われー。

すると海斗が

「でも、桜もありがとうって言ってるぞ!」

「え、ほんと?」

違ったが否定してもややこしくなるので頷いた。


「ごめんね、もうちょっと元気になってから会いにくれば良かったんだけど、早く桜ちゃんには伝えたくて、少し聞いてくれる?」

 私は精一杯頷き、真剣な表情で私を見る二人の話に耳を傾けた。


二人はこれまでのことを話してくれた

 どうやら私を事故をして一命は取り留めたものの植物状態になっていたらしい。寝ている間二人は頻繁にお見舞いに来てくれていた。


 ある日春奈が渡の病室で寝てた時に夢の中で私に会ったみたい、すると私を見た春奈がこの夢があまりにも現実的すぎて、もしかして桜はただ夢から覚めてないだけなのでは?と妄想のような都合の良い希望に縋るような考えに至ったそう。

 でも何度病室で寝ても毎回私が夢に出てくるので、海斗に相談して夢から覚める方法を一生懸命探していたみたい。


 何年かかけてようやく見つけたのが、ある神社で見つけたミサンガらしい。

これをつけたまま眠りについて、夢の中で「これは夢だ」って思いながら引きちぎると必ず目覚めれるらしい。

 元々は悪夢を沢山見る人のために作られたみたい。


『じゃああれは夢だったんだ』


「こんなに上手くいくとは思わなかったけど本当に良かった。多分だけどあの世界の桜の両親がいてくれたからこそ、桜は自我がまだ残ってたんだと思う」

「春奈が桜と夢を共有してるって言った時は信じられなかったけど、不思議だよな。あの日医者と看護師に病室に泊まらせてくれって懇願して良かったわ」

「本当に藁にもすがる思いだったよね。縋ったのはミサンガだけど」

春奈はポケットから千切れたミサンガを取り出した。


「本当に不思議だったぜ、朝起きたら三人のミサンガが切れてたんだもん」

私も何とか手を確認してみる左手首に千切れたミサンガがついていた。

『あの時のミサンガだ』


私は夢の出来事を思い出した

そして病室に飾ってあるお見舞いのたびに増えていったであろう、たくさんのぬいぐるみを見て感謝の言葉を口にした


「ありが、とう」


春奈と海斗はそんな私を見て、大粒の涙を流して泣いていた。




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少女の話 木管あひる @MokkanAhiru

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