第7話 おばあちゃんの遺言

 あの電車に乗ってたら、天国に行ってたんだろうな。


 それからわたしは奇跡的な回復力で、一か月後に退院した。

 お見舞いに来てくれたヒナタから、長いこと施設に入っていたおばあちゃんが亡くなったことを聞いた。

 もしかしたらと思っていたけれど、やっぱりショックだった。

 わたしが意識不明から生き返った日に亡くなったそうだ。


 わたしがオンオン泣くのを見てヒナタはなんか感動してた。


 「孫のわたしより悲しんでくれてありがとう、、、」

 「いや、そんなんじゃないけど、なんかごめん、いやごめんじゃないけど」


 なんだかいろんな気持ちが押し寄せて来てどうしようもなく泣いた。


 奇跡的な短期間で退院した私は、事故ったドライバーの人が全力で修理してくれて新品同然になったモスグリーンの自転車に乗ってヒナタの家に行った。


 また、自転車に乗るなんてとママは心配したけれど、自転車で行きたいと思った。

 ヒナタのおばあちゃんにお線香をあげるために行くから。


 ヒナタのおばあちゃんは、小さいころは一緒に暮らしていたけれど、呆けはじめて介護が大変になってから施設に入っていたそうだ。

 ここ数年はヒナタのパパ、おばあちゃんにとっては息子だけど、の顔もわからないほど呆けちゃったらしい。

 春先から引いた風邪をこじらせて肺炎になって、意識不明になった時、みんなはこのままおじいちゃんのところ(天国)に行った方が幸せかもなぁって思った。ってヒナタは言った。


 「ねぇミサト、おばあちゃん死ぬ前に変なこと、言ったの」


 「なんて?」


 「ずっと、家族のこともわからなくなっちゃってたのに、急に私の手を握ってね、ヒナタちゃんって」


 「うん」


 「トキメキを大切にね」って


 「トキメキを大切に・・・」


 「そう、それが最後の言葉で、それっきり目をとじて眠っちゃったの」


 「そっか、、、、」


 「これって、遺言なのかなぁ?」


 「そうかもね。きっとそうだよ」


 わたしは、おばあちゃんの位牌に手を合わせ、お線香をあげてヒナタの家を出た。


 トキメキかぁ。便利よりもトキメキだ。

 そうだよね。


 やっぱり、緑山公園前駅で、わたしはおばあちゃんに会ってたんだね。

 確信したよ。あそこは現実であって現実じゃない、この世からあの世に向かう駅だったんだね。


 なんとなく、そんな気がするのは、ヒナタのおばあちゃんはきっぷを失くしたんじゃなくて、実はわたしのきっぷを狙ってたんじゃないかってことだ。

 なんだかんだと町を連れまわして、駅から遠ざけ、わたしからきっぷを奪いさろうとしたんじゃないかって。

 わたしがあの緑色の急行電車に乗らないように。


 ありがとう、ヒナタのおばあちゃん。

 ありがとう、わたしの命を信じてくれたママ、パパ。

 わたし、トキメキを大事にしてもっと生きるね。

 モスグリーンの自転車で颯爽と風を切って、わたしは家に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モスグリーンの自転車で 秋喬水登 @minato_aki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ