第6話最終話

 今、母上様と父上様の家のリビングにいる。

 たくさんかわいがってくれた場所から去らないといけないのは

 とても悲しいのにゃ。

「これもしまわないとね」

 母上様は名残惜しそうにつぶやいたのにゃ。


 朝食を食べきるとお皿を洗われてどこかに隠されてしまったにゃ。

 水はまだあるけれど。今のうちに飲んでおくにゃ。

 段々と酷暑と言われるどうやっても暑い状態からは脱したようだ。


 9月下旬というものになったらしい。

 日差しが厳しくはあるがもう酷暑とは言われなくなってきたようだ。

 なにやらテレビでそういっているからそうなのだろう。


「じゃあね。ミケ。これでしばらくは会えなくなるけれど、あの子が呼んだらすっ飛んでくるからね」

 母上様が持ってきてくれたのは移動用のケージだ。

 その移動用のケージに大人しく入る。

「にゃー」

「本当にかわいい子ね。ウチに来てくれて楽しかったわ。ありがとう」

 それはこちらのセリフにゃ。

 母上様のおかげでこれから先の猫の生活をより楽しんでいけそうだにゃ。


「はい。しめるわよ」

 母上様は名残惜しそうにバッグのチャックを閉めていく。

 どうやらこの後は車というものに乗り込んだようだ。

 車独特の匂いが漂ってくる。この匂いはすっごく苦手なのにゃ。

 右に左に揺られながら緊張状態は解かない。


 きっとご主人様のところへと行くのだろうけれども、油断はできないにゃ。


 これで病院に連れていかれたら母上様を嫌いになる自信はあるのにゃ。


 どれぐらい揺られただろう。

 もう臨戦態勢を維持することにも疲れてきたにゃ。

「にゃー」

 鳴いても危険の様子はない。

 少し体制を崩す。

 すっと同じ体制をしないといけないからかなり疲れてくる。


 ここにきて日頃の運動不足がたたっている。

 キチンと運動をしないと戦闘体制にもなれないのだなと実感したのにゃ。


 御主人様にはもっとたくさん遊んでほしいにゃ。

 ガタリと移動する。

 チャックを開けられた先には御主人様が待っていた。

 沢山のおもちゃと共に。

「にゃー」

 嬉しくて嬉しくてご主人様の周りを何回も回ってしまう。

 「フフ、久しぶりね。この部屋かなり変わったでしょ。ミケのためにたくさん改造したんだから」

 おもちゃを数種類、手に取って笑うご主人様。

 新しくなった部屋を探索し始めると確かに埃がない。

 どこもかしこも綺麗で探索するのが楽しくなるにゃ。

「フフ。まだちょっとふっくらしているからご褒美はまた今度ね。今日はいっぱい運動しましょ」

 ご主人さまは優しくいってくれる。

 どこもかしこも好きなご主人様の匂いでいっぱいで嬉しくなってしまう。

「マタタビに負けないくらいしっかり遊んであげるね」

「ミャーゴ」

 秋から快適な生活が始まった。時々母上様も父上様も来てくれる。

「もー。そんなに毎回来なくっても」

「ミケちゃんが可愛いんだから仕方ないでしょ」

 母上様も父上様のことも大好きなの。

 こんな風にみんなにかわいがられて本当に幸せだにゃ。

「また来るわね。今度は何かおもちゃを買ってくるわね」

「にゃー」

 そういってくれる母上様が大好きだ。

「たまには外を探索したいよね。5分くらい外に出ようか」

 首輪をつけられ抱っこされる。

 これはこれでありかも知れない。

 ご主人様と回る外は興味深い。本当に外の世界はうるさい音であふれている。自分で探索したいとは思わないけれど花の匂いや食べ物の匂いが充満している。

「どうだった? やっぱり外に出たいと思うかな?」

 私の場合はご主人様のそばがいいのにゃ。たくさんの変なにおいよりもご主人様の愛情あふれた部屋の匂いが大好きなんだ。

 これからもよろしくね。私のご主人様。母上様も父上様も。


「あらら。寝ちゃった。この部屋を気に入ってくれたようで嬉しいわ」


 ご主様はそう、つぶやいたみたいだ。


 END

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猫のキモチ 完 朝香るか @kouhi-sairin

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