第5話ご主人様の頑張り
「あれから二月かぁ。時が経つのは早いものね」
「にゃーご」
季節は移り変わっている。もうすぐ暑い夏が来ようとしている。
風鈴を設置してそのあと扇風機を持ってきた。
「そうねぇ。今日から空調を入れ始めましょ。あまり急激に寒いと体調を崩してしまうけれど。扇風機からならどうかしら」
母上様は何やら機械を掃除した後にポチリと機械のボタンを押した。
涼しいにゃ。風がちょっとうるさいけれど暑いよりも全然いいにゃ。
「どうかしら。扇風機の弱ならそんなにうるさくないと思うのだけど」
心地いいにゃ。さすが母上様なのにゃ。
「ふふ。気に入ってくれたようね」
うれしいにゃ。
「あ、そういえばあの子から連絡があってね。
とりあえず様子見に行かせてくれってどうする?
会いたい?
あんな御主人様でも」
にゃーにゃ。会いたいにゃ。母上の足元に転がって肯定を伝える。
「わかったわ。あなたの好きなものを持ってくるように言うわね」
母上様はまた電話というものと会話している。
ご主人様の声が断片的に漏れ聞こえるが、なんて言っているのかはわからない。
「にゃーご。ニャーゴ」
母上様の周りで鳴いてみる。ご主人様に少しでも聞こえているといいな。
「ああ、ミケの様子? 最近扇風機の前にずっといるわね。涼しいのが好きみたいね」
「そう。ミケの好きなものを買っていらっしゃい」
「はい」
かすかにご主人様の懐かしい声が聞こえた。
「本当にね。あの子の言葉を聞いていると私がミケを誘拐したみたいな言い方するのよ。ひどいわよね。愛猫より彼氏をとっておいて」
確かにそうだけれど。戻ってきてくれて嬉しいにゃ。
☆☆☆
ある暑い日。海の日というものらしい。休日というやつで母上様も父上様も休みのようだ。そんな中ご主人様は汗だくでやってきた。
「ミケ、待っててくれた?」
ご主人様を忘れることない。絶対にない。おなかを見せてアピールする。
「よかった。え、手こんなに丸かった?」
「やっぱり太らせ過ぎかしら。体重的には許容範囲なのだけど」
「も、もう少し痩せた方が猫の健康には良いんだよ。ご褒美ばっかりあげているでしょう」
「そうかもしれないわ。二人であげてしまうものだから。つい可愛くて」
「その『つい』が慢性的な病気を引き起こすのよ」
「わかったわ。これからはご褒美もおやつも減らしていくわね」
「よろしく」
「あなた、きっちり指摘できるようになったじゃないの」
「もちろん。猫の専門書をたくさん買って日々学んでいるよ」
鞄から取り出したのは有名な猫の様子を解説する本だった。
両親もCMを通して知っている。
「そう。なら、秋になったらご主人様の自宅に戻りましょうかね」
「ねぇ、今度ウチに来たらびっくりするわよ」
「どういうお部屋になったのかしら」
「出来る範囲でおもちゃをかったり加湿器を買ったりしているよ」
ご主人様はスマホというものをだして何やら見せている。どうやらご主人様の家の写真というものらしい。
「そうなの! これならミケが快適に住めるのね」
「ボーナスつぎ込んで頑張っちゃった!」
父上様が口を開く。
「お前も溺愛していないでミケのご主人を認めてやりなさい」
「はい。わかったわ。残り少ない日々を一緒に過ごしていきましょうね。ミケ」
ご主人様も好きだが、この数か月でもっと母上様も好きになった。
「ほら、これだけ太っているとご褒美はまた今度ね。今日はこれで遊びましょ」
ミケがお気に入り白いモフモフのおもちゃだ。嫉妬もするが、触り午後地のいいやつなのだ。
ご主人様はウインクしていく。すごふるご機嫌だにゃ。
白いモフモフを投げたり手元に引き寄せたりご主人様はミケを翻弄してくれる。
久しぶりにこんなに動いたにゃ。今夜のご飯はすごふるおいしいはずだにゃ。
ご主人様は時間の許す限り遊んでいった。
そして夜の7時ごろには帰っていった。
「ミケ、今度は一緒に帰ろうね。これからもたくさん準備して待っているわ」
ご主人様は帰りに涙を浮かべていたのにゃ。
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