僕はゾンビである

滝口アルファ

僕はゾンビである

僕はゾンビである。

名前はもう忘れた。

いや、うそうそ。

もちろん覚えているが、

こんなゾンビだらけの

世の中になってしまったのに、

いまさら名前を明かしたところで、

いったい何の意味があるだろう。


思い返すと、

コロナウィルスが収束して、

これからって時だったんだよな。

人類はコロナウィルスに打ち勝ったと、

思い上がっていたんだ。

そんなとき、

コロナウィルスから突然変異した

ゾンビウィルスが現れて、

あっという間に、

世界中で流行したんだ。

またパンデミック!

それにしても、

ゾンビになって、

いまさら後悔しても始まらないのは、

分かっているけれど、

もし、

あの頃の人類にこの声が届くなら、

あらゆる手段を使って、

世界中に警告しまくるだろうに…。


僕はゾンビである。

街には僕と同じように

ゾンビになった人たちが彷徨(さまよ)っている。

ちくしょう!

どうせなら、

こんなゾンビ地獄の世界になる前に、

同棲していた彼女に、

プロポーズしておけばよかったな。

優柔不断な性格が祟ってしまった。

もちろん、

プロポーズしても、

OKしてくれたかどうかは、

知るよしもないが、

僕の肌感覚だと、

五分五分だったと思う。

ところが、

そんな彼女のほうが、

先にゾンビウィルスを発症して、

ゾンビになってしまった。

僕は、どうすることもできないで、

あの部屋からあたふたと逃げ出してきたのだ。

だから、

彼女があの後どうなったかは、

分からない。

昨日ゾンビウィルスを発症した僕のように、

街を彷徨っているのか、

あの頃はまだ、人間がたくさんいたから、

人間たちに殺されてしまったのか、

逆に人間を食い荒らしているのか、

心配だが、連絡の取りようが無い…。


僕はゾンビである。

そして街にはゾンビがあふれかえっている。

人間として生存している者は、

おそらく、

この地球上にもういないだろう。

僕は空腹だ。

昨日ゾンビになってから何も食べていない、

っていうか、

食料の人間が一向に見つからないのだ。

だから、

あちこちで、

空腹に絶えかねたゾンビたちが、

共食いしているありさまだ。

こんな地獄絵図のような

ゾンビだらけの世界が、

いつまで続くのだろう。

そして、

僕はゾンビという

未来も希望もない存在になって、

いつまで街を彷徨い続けるのだろう。


そろそろ、

微かに残っていた

人間としての思考能力も、

おぼろげになってきた。

ゾンビウィルスがいよいよ、

僕の脳味噌の深部をむしばんできたようだ。

ちくしょう!

ちくしょう!

ちくしょう!

こうなったら、

最後に、

誰の心にも届かないだろうけど、

趣味で作っていた短歌を、

めちゃくちゃ下手くそだけど、

辞世の短歌を詠んでおくことにしよう。


街をさまよえば

出会えるのだろうか

ゾンビの僕は

ゾンビの君に







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僕はゾンビである 滝口アルファ @971475

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