19 事実判明

 アンヌは泣き出した。気を張ってそこまで話して、限界がきてしまったのかも知れない。彼女はリーダーという役割を与えられていたわけではかなったが、ほかの少女たちの性格を見れば、率先してみんなを引っ張っていく必要があると、自らに課していたのだろう。

「ミシェルも、少佐と一緒に埋めたんだ」

 マリーが後を引き受けた。

「その軍人のことだけどな、目に焼き付いてるって言ったけど、姿や顔は覚えてない。というか、よく見えなかったんだ。だけど、その拳銃のことは忘れやしない、銀色の拳銃だったってことはな」

「これなのか?」

 フレンゼンは、そっと恩賜の銃に触れた。

「多分な。そうあるものじゃないんだろ?」

「ああ、特別に勲功のあった者に、皇帝陛下から直々に下賜される代物しろものだからな。軍事博物館にいくつかあるはずだが、現役なのは、これくらいだと思う」

「少佐もそう言ってたな。……大佐と違って、シュミット少佐はそれほど口数が多い方ではないだろ?」

「ああ」

 直属の部下という設定だ。知らないとは言えない。

「話題だって、軍のことや武器のことばかりで、それ以外には関心もあまりないようだったな。だからかな、あの日は少佐、気分よさそうに昔の自慢話をしていて、その銃のことを話したんだ、恩賜の銃っていう特別なものを皇帝からもらったって。現役保持者は自分だけじゃないかってな。それほど興味が湧いたわけでもなかったけど、話を合わせようとして、変わった銃なのか?って聞いたんだよ。そしたら、自分の拳銃を取り出して、これと同じ型だけど色がまったく違うんだ、銀色でカッコいいんだ、って笑顔で言ってたよ。……後で聞いたんだけど、アンヌはそれを聞いて忘れていた記憶を思い出したらしい。……でも、わたしは違う。その瞬間に頭に血が上って銃を構えてた。ソフィーもニコルもそうだ。ただ、ミシェルは短気なヤツでな。もう撃ち殺していやがった。ほとんど同時に少佐もミシェルを撃ってたんだ。二人とも早かった。真似しろって言われても、わたしはあんなに早くは撃てないね」

 マリーは悲しそうに笑った。

「ミシェルのしたことは、許されることではないけど、許してあげたかった……」

 アンヌが真っ赤にした目をフレンゼンに向けた。

「だから隠したのか?」

 フレンゼンは自分でも酷な言い方だと思った。

「保身という理由もあります。それがほとんどだったかも知れません」

「責めているわけでないさ」

「分かっています、大佐。……ミシェルは復讐なんて考えていなかったと思います」

「ただ、みんな恨みは忘れていなかったから、反射的に銃を構えたんだろうな。ミシェルはさらに引き金を引いた」

「ミシェルが生きていたら…」

 ソフィーが口を開いた。

「そうね。ミシェルが生きていたら、シュミット少佐だけを埋めて隠して、なかったことにできなかったかも知れない。復讐した本人も死んでしまったから、それで罪と罰のバランスが取れた、と心のどこかで都合よく解釈したんだと思います」

「そこまで自分たちを責めなくてもいいだろう」

「ありがとうございます、大佐。……世の中に二つとない銃だと聞いていましたから、今日までシュミット少佐があのときの虐殺者だと信じ込んでいました」

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