18 戦争孤児
「しっかりと覚えているわけではありませんが、私は国境近くのウシンという町の生まれです。国境近くだったせいで開戦してすぐ戦争に町ごと巻き込まれました」
アンヌは床に座ったまま、膝を抱えて昔話を始めた。
何の話だろう、とフレンゼンは思ったが、黙って聞くことにした。
「開戦の理由とか、戦争全体の推移とか、そういうことは、フレンゼン大佐に教えてもらうまでよく知りませんでした。あの頃、私の町で激しい戦闘があった頃、どちらが優勢だったのかも分かりません。いま思えば、ウスナルフ側の町であるウシンが戦場だったのですから、王国は押されていたんでしょうね。皇国軍も、普通に戦争をしていただけだと思います。ただ、軍同士が町中でぶつかり合っていたので、民間人にもたくさんの死傷者が出ました。それでも、戦争はどちらかの国だけのせいではないんでしょ?差はあったとしても、正義と正義、利害と利害のぶつかり合いだって、正義と悪の戦いなんて滅多にないんだって、これも大佐に聞きました」
フレンゼンは頷いたが、アンヌはそれを見ていなかった。
「だから、アイロッソ皇国そのものを恨んだりはしていないんです。戦争孤児になってしまったことも、災害で家族をなくした子供たちと同じだと思うようにしてきました。この間までシュミット少佐がやっていたことも、いま私たちがしていることも、もちろんいいことではありませんけど、どちらかと言えば、戦争が起きないようにするための指令ばかりだと思います。少なくとも、そう自分を納得させて任務を遂行しているんです。……確認し合ったことはないんですけど、きっとみんな同じような気持ちだと思います」
アンヌを見つめるマリーとソフィー、そしてニコルも小さく頷いた。
「でも、あの日」
アンヌの口調が強くなった。
「おい!」
マリーが話を止めようとした。
「仕方ないよ、知ってしまったんだから。……このまま隠しておいたら、シュミット少佐に申し訳ないもの。……あの日、少佐が亡くなった日、思い出したんです。私の家族は、爆発や流れ弾で死んだんじゃなくて、民間人だと分かったうえで、ある軍人に虐殺されたんです。その男は、笑いながら大勢の町の人を射殺していました。撃ち殺すことを楽しんでいたんです。忘れていたその光景を急に思い出しました」
「ひどい話だな」
フレンゼンには、それしか言えなかった。
「マリーは覚えていたのよね?」
「ああ、わたしの生まれ育った町でも、そいつが同じようなことをしやがった。しっかり目に焼き付いて、忘れたことなんてなかったよ。ソフィーもニコルもそうだよな?」
「うん」
ニコルは黙って頷いただけだった。
「もう一人、ミシェルもそうでした」
「ミシェル?」
「はい。シュミット少佐に育てられたもう一人の戦争孤児です。……あの日、あの場所にいたのは六人でした。……シュミット少佐は病気ではなく、ミッシェルに射殺されたんです」
「それで、ミシェルは?逃げたのか?」
ほかに聞くことがあるようにも思ったが、彼はまずそう質問してしまった。
「相打ちでした。ミシェルはシュミット少佐に……」
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