12 隠蔽工作

「その通りです」

 アンヌは、真っ直ぐにフレンゼンの目を見つめた。

 悪事を告白する覚悟なのか、許してもらえるという確信なのか、その時点の彼にはもちろん分からなかった。

「聞こう」

「半年ほど前のことです。みんなで夕飯を食べているときに、突然、倒れて。苦しそうな少佐の傍らに近づいたんですけど、どうしてよいか分からず、ただ見ていることしかできませんでした。ようやくお医者さまを呼ぼうと考えたころには、もう息がありませんでした」

「毒殺、という可能性は?」

「その日は、私が料理の当番でした。出来たてをみんなでテーブルに並べたので、私たちの中に犯人がいれば、可能かも知れません」

 アンヌは心の動きを外に見せなかった。

「そうか。で、遺体は?」

「埋めました。……亡くなったのは、少佐が用意していた拠点の一つです。その裏庭に」

「どうして誰にも知らせなかったんだ?軍にも、取引先にも、隣人たちにも」

 答えに察しはついていたが、彼女の口から聞きたかった。

「怖かったんです、私たち、この暮らしを失うのが」

「それで半年も隠してきたのか」

「もちろん、少佐がどんな状態であれ生きてさえいれば、誰かに助けを求めたと思います。少佐は恩人ですから……。でも、少佐は死んでしまった。自分たちのことは自分たちでどうにかしようと考えたんです」

「少佐の教え通りに、か?」

「はい」

 ドアの外で様子を窺っていたのだろう、マリーとソフィーが部屋に入ってきた。

「店は閉めてきたよ」

「ありがとう、マリー」

 窓の外は真っ暗だった。

 マリーとソフィーもベッドに腰掛けてフレンゼンを見つめた。

 ほかにも部屋があるのに、四つのベッドをその一部屋に置いているのは、少女たちの不安の表れだろうか。

「四人で協力して遺体を埋めておいて、ジャックの帰りを待ちながら店を守る少女たちを演じていたわけだ」

 フレンゼンの挑発に、

「おい!」と声を上げたのはマリーだった。

 アンヌが、それを手で制して、

「その通りです」と頭を下げた。

「いや、言い方が悪かった。咎めていないわけではないが、怒ってはいない。むしろ感心しているんだ。シュミット少佐は、よく訓練したものだ、と思ってな」

 腰を浮かしかけていたマリーは、ゆっくりと元の姿勢になった。ソフィーは、うつむいてしまった。ニコルの視線は相変わらず窓の外だ。

「それで、任務はどうしていたんだ?この半年間、お前たちだけで任務を遂行していたのか?」

「はい」

 指令は、シュミット少佐が用意していた複数の拠点のどこかに届く。誰がどのように届けているのかは彼女たちも知らないが、毎日それらの拠点を巡回して点検しているそうだ。指令が届けば、四人で計画を立て実行する。

 彼女たちはシュミット少佐の任務に同行したことなどなかったが、それでもやるしかなかった。迷っている余裕もなかった。教えられたことを思い出しながら、仕事を着実にこなすことだけを考えていた。皇国軍にとっても、四人の少女たちにとっても幸か不幸かは分からないが、任務遂行能力は十分だったようだ。それどころか、少佐に比肩するほどのスナイパーが四人も同時に任務に当たるのだ。成果が絶大なのは当然の結果だろう。

「そうか、魔術師の正体はお前たちだったのか」

「魔術師?」

「いや、それはもうどうでもいいことだ」

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