13 思考迷路

「それで、私たちはこれからどうなるんでしょうか」

 ニコルも含め、四人がフレンゼンを見た。

「どうするかな……」

 本当に迷っていた。もちろん彼に課せられた職務からすれば、彼女たちを拘束したうえで、ことの次第を軍令部に報告、というのが筋だ。しかしその場合、年齢を考慮されたとしても四人が重い罰を受けるのは避けられないだろう。彼女たちの罪には目をつぶって逃亡させたとしても、果たして普通に生きていけるだろうか。

 自分が、大して知りもしない少女たちの行く末を案じていることに、彼は少なからず驚いた。だが、捨て置くほど非情にはなれなかった。本物の軍人なら違ったのだろうか、とフレンゼンは思った。

「まあ、よくて強制労働、普通に考えれば処刑だろう」

 マリーが笑顔でそう呟いた。

「そんな……」

 ソフィーは静かに泣き出した。ニコルは黙ったままだ。

「仕方ありません」

 そんなことを平然と受け止められるような年齢でもないだろうに、アンヌは毅然としていた。

「少し考えさせてくれ」

「いいんですか?」

 アンヌの疑問はもっともだ。

「このことを知っているのはお前たちだけだろうな?」

「もちろんです」

 答えを聞いて頷きながら、彼は計算していた。

 感情的にはどうにかしてあげたいところだが、いくら不遇の少女たちを憐れんでいたとしても、自分の命を懸けるのではバランスが悪過ぎる。実際に四人は機能している。シュミット少佐以上に任務を遂行していると言ってもいい。そう、魔術師などと噂されるほどに。皇国軍の現在の実益のみを考えれば、このまま彼女たちを任務に就かせておいた方がいい。しかし一般的に軍隊にとって規則は絶対だ。ルールを蔑ろにすることは、長い目で見れば皇国軍にとって損失かも知れない。仮とはいえ大佐という立場を前提にすれば、目先の損得ではなく、広い視野と長期的な思考が必要というものだろう。ただし、仮は仮だ。大佐としての経験はもちろん、その資質がないことは自他ともに認めるところだ。現状維持にも一理ある。つまり後でフレンゼンが責められることになったとしても、迷っていたという言い訳は通りそうだ。

「いまはそれで十分だ」

 頭の中の言葉が、呟きとなって口から漏れていた。

「どういうことですか、大佐」

 本当は大佐などではなく、軍人ですらない。経理課の職員であることを打ち明ける機会は、きっとないのだろうな、と彼はそのとき思った。

「まずは軍令部の指示を仰ぐ。命令が下るまでは、これまで通りの行動を取ってくれ」

「分かりました」

 アンヌは心底ほっとしたような表情だった。結論が先延ばしになっただけなのに安心し過ぎだ、とフレンゼンは感じたが、その表情には、もっと別の意味があったことを、彼は後になって知ることになる。

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